[ストーリー] スイスのベルンの高校で、古典文献学を教えるライムント・グレゴリウスは、ラテン語とギリシア語に精通する、知性と教養に溢れた人物だ。5年前に離婚してからは孤独な一人暮らしを送り、毎日が同じことの繰り返しだが、特に不満は無かった。だが――学校へと向かうある嵐の朝、吊り橋から飛び降りようとした女を助け、彼女が残した一冊の本を手にした時から、すべてが変わる。
本に挟まれたリスボン行きの切符を届けようと駅へ走り、衝動的に夜行列車に飛び乗ってしまうライムント。車中で読んだ本に心を奪われた彼は、リスボンに到着すると、作者のアマデウを訪ねる。彼の妹は兄が留守だと告げるが、実は若くして亡くなっていたと知ったライムントは、彼の親友や教師を訪ね歩く。医者として関わったある事件、危険な政治活動への参加、親友を裏切るほどの情熱的な恋――アマデウの素顔と謎を解き明かしていくライムント。そして、遂に、彼が本を著した本当の理由に辿り着くのだが――。[プレスより]
原作は2004年に出版され、31ヵ国で翻訳、全世界で400万部を突破した、パスカル・メルシエのベストセラー小説『リスボンへの夜行列車』。監督は、『ペレ』『愛の風景』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いた名匠ビレ・アウグスト。レビューのテキストは準備中ですが、ひとまず簡単な感想を。
『リスボンに誘われて』を観ながら、何度も頭をよぎった作品があります。ピーター・キャメロンの『最終目的地』(02)をジェイムズ・アイヴォリーが映画化した『最終目的地』(08)です。
映画の舞台は南米ウルグアイの辺境の地です。朽ちかけた屋敷に、自ら命を絶った作家ユルス・グントの妻キャロライン、ユルスの愛人だったアーデンと小さな娘、ユルスの兄アダムとそのパートナーのピートが暮らしています。そこに突然アメリカから大学教員の青年オマーがやって来ます。彼の目的は、ユルスの伝記執筆の公認を得ることでした。
この二作品には共通する魅力があります。『最終目的地』に登場する作家の未亡人、愛人とその娘、作家の兄とそのパートナーは、辺境の地で作家の不在という空白に囚われ、時間が止まってしまったような世界を生きています。そこに大学教員という他者が入り込むことで、身動きがとれなくなっていた彼らが解き放たれていくことになります。
『リスボンに誘われて』でも、亡くなったアマデウの妹や親友たちは、独裁とレジスタンスをめぐる重い過去に呪縛され、時間が止まってしまったような世界を生きています。そこにライムントという他者が入り込むことによって、彼らは呪縛を解かれていくことになります。 |