リスボンに誘われて
Night Train to Lisbon


2013年/ドイツ=スイス=ポルトガル/カラー/111分/アメリカンヴィスタ/5.1ch
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(初出:)

 

 

死者が遺した言葉、死者に導かれる物語
異邦人=他者が過去に呪縛された人々を解き放つとき

 

[ストーリー] スイスのベルンの高校で、古典文献学を教えるライムント・グレゴリウスは、ラテン語とギリシア語に精通する、知性と教養に溢れた人物だ。5年前に離婚してからは孤独な一人暮らしを送り、毎日が同じことの繰り返しだが、特に不満は無かった。だが――学校へと向かうある嵐の朝、吊り橋から飛び降りようとした女を助け、彼女が残した一冊の本を手にした時から、すべてが変わる。

 本に挟まれたリスボン行きの切符を届けようと駅へ走り、衝動的に夜行列車に飛び乗ってしまうライムント。車中で読んだ本に心を奪われた彼は、リスボンに到着すると、作者のアマデウを訪ねる。彼の妹は兄が留守だと告げるが、実は若くして亡くなっていたと知ったライムントは、彼の親友や教師を訪ね歩く。医者として関わったある事件、危険な政治活動への参加、親友を裏切るほどの情熱的な恋――アマデウの素顔と謎を解き明かしていくライムント。そして、遂に、彼が本を著した本当の理由に辿り着くのだが――。[プレスより]

 原作は2004年に出版され、31ヵ国で翻訳、全世界で400万部を突破した、パスカル・メルシエのベストセラー小説『リスボンへの夜行列車』。監督は、『ペレ』『愛の風景』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いた名匠ビレ・アウグスト。レビューのテキストは準備中ですが、ひとまず簡単な感想を。

 『リスボンに誘われて』を観ながら、何度も頭をよぎった作品があります。ピーター・キャメロン『最終目的地』(02)をジェイムズ・アイヴォリーが映画化した『最終目的地』(08)です。

 映画の舞台は南米ウルグアイの辺境の地です。朽ちかけた屋敷に、自ら命を絶った作家ユルス・グントの妻キャロライン、ユルスの愛人だったアーデンと小さな娘、ユルスの兄アダムとそのパートナーのピートが暮らしています。そこに突然アメリカから大学教員の青年オマーがやって来ます。彼の目的は、ユルスの伝記執筆の公認を得ることでした。

 この二作品には共通する魅力があります。『最終目的地』に登場する作家の未亡人、愛人とその娘、作家の兄とそのパートナーは、辺境の地で作家の不在という空白に囚われ、時間が止まってしまったような世界を生きています。そこに大学教員という他者が入り込むことで、身動きがとれなくなっていた彼らが解き放たれていくことになります。

 『リスボンに誘われて』でも、亡くなったアマデウの妹や親友たちは、独裁とレジスタンスをめぐる重い過去に呪縛され、時間が止まってしまったような世界を生きています。そこにライムントという他者が入り込むことによって、彼らは呪縛を解かれていくことになります。


◆スタッフ◆
 
監督   ビレ・アウグスト
Bille August
脚本 グレッグ・ラター、ウルリッヒ・ハーマン
Greg Latter, Ulrich Herrmann
原作 パスカル・メルシエ
Pascal Mercier
撮影 フィリップ・ツンブルン
Filip Zumbrunn
編集 ハンスヨルク・ヴァイスブリッヒ
Hansjorg WeiBbrich
音楽 アンネッテ・フォックス
Annette Focks
 
◆キャスト◆
 
ライムント・グレゴリウス   ジェレミー・アイアンズ
Jeremy Irons
エステファニア メラニー・ロラン
Melanie Laurent
アマデウ・デ・プラド ジャック・ヒューストン
Jack Huston
マリアナ マルティナ・ゲデック
Martina Gedeck
ジョアン トム・コートネイ
Tom Courtenay
ジョルジェ アウグスト・ディール
August Diehl
年老いたジョルジェ ブルーノ・ガンツ
Bruno Ganz
年老いたエステファニア レナ・オリン
Lena Olin
バルトロメウ神父 クリストファー・リー
Christopher Lee
年老いたアドリアーナ シャーロット・ランプリング
Charlotte Rampling
-
(配給:キノフィルムズ)
 

 さらに、『最終目的地』では、著書を一冊だけ残して自殺した作家ユルスという死者の存在が、伝記執筆の公認を得たい大学教員とユルスの遺言執行者たちを結びつけていくことになります。『リスボンに誘われて』では、わずか100部しか刷られなかったアマデウの本が、それを手にしたライムントと過去に呪縛された人々を結びつけていきます。そういう意味でこれも死者に導かれる物語といえます。

 また、永遠と人が生きる限られた時間を対置するような視点も印象に残ります。その視点については、パオロ・ソレンティーノ『グレート・ビューティー/追憶のローマ』と比較してみても面白いと思います。

 

(upload:2014//)
 
 
《関連リンク》
ピーター・キャメロン 『最終目的地』 レビュー ■
ジェイムズ・アイヴォリー 『最終目的地』 レビュー ■
パオロ・ソレンティーノ 『グレート・ビューティー/追憶のローマ』 レビュー ■

 
 
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