ユルスの3人の遺言執行者とその家族、具体的にはユルスの妻のキャロライン、愛人のアーデンとその娘、兄のアダムとその恋人のピートは、南米ウルグアイの人里離れた屋敷にひっそりと暮らしている。キャロラインとアーデンとアダムは、それぞれの事情によって伝記を公認しない決定を下すが、彼らを直接説得するためにオマーが現れ、物語は意外な方向へと展開していく。
この小説に登場するのはみな故郷を喪失した人々だ。アダムとユルスの両親は、ナチスの迫害を逃れてドイツからウルグアイに渡り、辺鄙な土地に故郷であるバイエルン地方を再現しようとした。
キャロラインはニューヨークで妹と暮らしていたが、ユルスと出会い、結婚し、ウルグアイに渡った。アーデンは5歳で母親を亡くし、ウィスコンシン州で祖母に育てられ、祖母が亡くなるとイギリスで父親と暮らした。その後、キリスト教の布教グループの一員としてウルグアイを訪れたときに、大学で教えるユルスと出会い、恋に落ち、そこに留まることになった。タイのバンコクに生まれたピートは、生きるために男娼になり、あるドイツ人との縁がきっかけでシュトゥットガルトに移り、アダムと知り合いウルグアイに落ち着いた。
オマー・ラザギは、イラン生まれで、彼の両親は王が退位したときに国を出て、カナダに渡り、将来に関してその両親と対立する彼は、カナダからカンザスに移った。そんな彼は、大学のディアスポラ文学の授業で、ユルスが発表した唯一の小説『ゴンドラ』を読み、伝記を書きたいと思うようになる。
故郷を喪失した登場人物たちは、自分が見えなくなっているが、オマーが彼らを訪ねることによって、様々な波紋が広がり、それぞれの"最終目的地"が次第に明らかになっていく。優雅な趣、独特のユーモア、豊かな洞察、繊細な表現、これはなかなか素晴らしい作品だった。
アイヴォリーの映画では、アダムをアンソニー・ホプキンスが、キャロラインをローラ・リニーが、アーデンをシャルロット・ゲンズブールが、ピートを真田広之が演じている。真田広之は前作の『上海の伯爵夫人』にも出演していた。小説を読んでいるときには、キャストはまだ頭に入っていなかったが、筆者はアダムをアンソニー・ホプキンスに重ねていた。ちなみに、IMDbの一般評価ではかなりの高得点を獲得しているが、なぜ公開されないのだろうか。 |