レディ アサシン
Boarding Gate


2007年/フランス=オランダ/カラー/106分/シネマスコープ/ドルビーデジタル
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(初出:日本版「Esquire」、若干の加筆)

『デーモンラヴァー』とは異なるもうひとつの結末
グローバリゼーションの時代における過酷なサバイバル

 オリヴィエ・アサイヤスの新作『レディ アサシン』では、以前の作品『デーモンラヴァー』(02)と同じように、グローバルな市場における熾烈な競争と個人の肉体や欲望が複雑に絡み合うことによって、独自のエロティシズムが生み出される。

 『デーモンラヴァー』は、産業スパイのディアーヌが、上司のカレンに睡眠薬を盛り、彼女を失脚させるところから始まる。空港で男たちに書類を奪われ、車のトランクに放置されたカレンは、後にその体験をレイプと変わらないと語る。

 やがてディアーヌ自身も、それがどんな体験であるかを思い知らされる。彼女にとって決定的なダメージとなるのは、自分が犯した重大なミスよりも、その後に意識を失った自分が記録され、晒し者になっていたことなのだ。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   オリヴィエ・アサイヤス
Olivier Assayas
撮影 ヨリック・ル・ソー
Yorick Le Saux
編集 リュック・バルニエ
Luc Barnier
 
◆キャスト◆
 
サンドラ   アーシア・アルジェント
Asia Argento
マイルズ マイケル・マドセン
Michael Madsen
レスター・ワン カール・ン
Carl Ng
スー・ワン ケリー・リン
Kelly Lin
リサ ジョアンナ・プレイス
Joana Preiss
カイ キム・ゴードン
Kim Gordon
アンドリュー アレックス・デスカス
Alex Descas
-
(配給:タキコーポレーション)
 
 

 『レディ アサシン』のヒロイン、サンドラにも、そうしたエピソードを連想させる過去がある。彼女は、日本人のビジネスマンに睡眠薬を盛られ、レイプされ、写真に撮られ、晒し者にされた。

 但し、スパイではなく、娼婦として生きる彼女にとっては、それは、倒錯的な関係の始まりとなる。サンドラと彼女のパトロンになった実業家のマイルズは、ビジネスと個人の欲望が錯綜する世界に、快楽と愛を見出してきた。

 しかし、市場が変化するように、彼らの関係も長くはつづかない。サンドラはマイルズを射殺し、パリから遠い香港という異国の地で罠にはめられていく。

 この映画は、『デーモンラヴァー』の物語を踏まえながら、最終的にもうひとつの結末を提示する。ディアーヌは、偽名も偽造の身分証もスパイの仮面も剥ぎ取られる。残った肉体は、グローバルな市場に取り込まれ、ネットに拡散していく。

 これに対してサンドラは、過去をかなぐり捨て、孤立無援の戦いを繰り広げ、偽名と偽造の身分証を獲得し、完全に匿名的な存在となる。そこには、現代における個人の在り方の両極を見ることができる。


(upload:2012/01/31)
 
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