『レディ アサシン』のヒロイン、サンドラにも、そうしたエピソードを連想させる過去がある。彼女は、日本人のビジネスマンに睡眠薬を盛られ、レイプされ、写真に撮られ、晒し者にされた。
但し、スパイではなく、娼婦として生きる彼女にとっては、それは、倒錯的な関係の始まりとなる。サンドラと彼女のパトロンになった実業家のマイルズは、ビジネスと個人の欲望が錯綜する世界に、快楽と愛を見出してきた。
しかし、市場が変化するように、彼らの関係も長くはつづかない。サンドラはマイルズを射殺し、パリから遠い香港という異国の地で罠にはめられていく。
この映画は、『デーモンラヴァー』の物語を踏まえながら、最終的にもうひとつの結末を提示する。ディアーヌは、偽名も偽造の身分証もスパイの仮面も剥ぎ取られる。残った肉体は、グローバルな市場に取り込まれ、ネットに拡散していく。
これに対してサンドラは、過去をかなぐり捨て、孤立無援の戦いを繰り広げ、偽名と偽造の身分証を獲得し、完全に匿名的な存在となる。そこには、現代における個人の在り方の両極を見ることができる。 |