オリヴィエ・アサイヤスの2004年作品『クリーン』では、歌手を夢見ながらもドラッグに溺れ、ロックスターの夫を亡くし、息子の養育権を奪われたエミリーが、懸命に人生を立て直そうとする姿が描き出される。だが、アサイヤスが関心を持っているのは、エミリーという個人の再生の物語だけではない。
見逃せないのは、『クリーン』とその前後に発表された『DEMONLOVER デーモンラヴァー』、『レディ アサシン』との関係だ。アサイヤスは映画を撮っているときには特に意識していなかったが、後から振り返ってそれらの作品を、グローバリゼーションをめぐる三部作と位置づけるようになった。
たとえば新作『夏時間の庭』のプレスには、彼のこんな発言がある。「(三部作では)文化や言語が入り乱れ、物や金によって行動が定められてしまう現代社会について語りたかったのです」
『クリーン』の舞台は他の二作品と同じように国境を越え、バンクーバー、パリ、ロンドン、サンフランシスコへと広がっていく。ドラマには、英語、フランス語、中国語が入り乱れる。そんな世界のなかでヒロインの行動が規定されていく。
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