ラブストーリーズ エリナーの愛情
The Disappearance of Eleanor Rigby: Her


2013年/アメリカ/カラー/95分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

女の視点から見たカップルの破局と再生
逃げる女が彼の背中を追いかけるまで

 

[ストーリー] エリナーは生まれてはじめて長い髪をバッサリ切った。聴講生として通いはじめた大学では、自分のことを誰も知らない環境に心地良さを感じている。ウェストポートにある実家の部屋でひとり、ベッドに身を横たえると、コナーと過ごした楽しい思い出がよみがえる。

 彼と暮らしたNYのアパートを離れて、どれくらい経っただろう。幼い我が子を失ってから、エリナーは自分だけが悲しみを抱えているようで、コナーとの間に心の距離を感じていた。どうして気持ちを分かってくれないの?恋しいのに、一緒にはいられない。揺れ動く気持ちに戸惑いながら、エリナーが選んだ人生の道のりとは――。[プレスより]

 ネッド・ベンソン監督の長編デビュー作は2作品で構成され、ひと組のカップルの破局から再生に至る物語が、男と女それぞれの視点を通して描き出される。2作品はどちらから観ることもできるが、『ラブストーリーズ コナーの涙』で書いたように、個人的には「コナーの涙」から入るのがいいと思う。

 2作品の導入部には明確な違いがあり、エリナーとコナーの心理の違いを読み取ることができる。「コナーの涙」は、コナーの幸福な思い出から始まる。彼はそんな以前の関係を取り戻すことを望み、姿を消したエリナーを追いかけてしまう。これに対して「エリナーの愛情」は、悲しみから立ち直ることができないエリナーが川に身を投げるところから始まる。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ネッド・ベンソン
Ned Benson
撮影 クリストファー・ブローヴェルト
Christopher Blauvelt
編集 クリスティーナ・ボーデン
Kristina Boden
音楽 Son Lux
 
◆キャスト◆
 
エリナー・リグビー   ジェシカ・チャステイン
Jessica Chastain
コナー・ラドロー ジェームズ・マカヴォイ
James McAvoy
メアリー・リグビー イザベル・ユペール
Isabelle Huppert
ジュリアン・リグビー ウィリアム・ハート
William Hurt
ケイティ・リグビー ジェス・ワイクスラー
Jess Weixler
フリードマン教授 ヴァイオラ・デイヴィス
Violla Davis
スチュアート ビル・ヘイダー
Bill Hader
-
(配給:ビターズ・エンド/パルコ)
 

 エリナーは人生に区切りをつけなければ、再び歩み出すことができない。彼女はコナーと痛みを分かち合える状態ではないので、ウェストポートにある実家に戻る。そこには、大学教授で精神科医の父親ジュリアン、フランス人で元ヴァイオリニストの母親メアリー、シングルマザーになって息子と実家に戻ってきた妹ケイティが暮らしている。

 「コナーの涙」とは対照的に、エリナーと彼女を取り巻く人々との間には微妙な距離がある。昔からエリナーに憧れてきたケイティは、病院に姉を迎えにきたときから緊張を隠すことができない。ジュリアンは、父親として自然体でエリナーに向き合う以前に、友人のセラピストを家に招き、彼女の感情を逆なでしてしまう。メアリーは、いつもワインを手放さない異邦人で、やはり自然体で娘と接するタイプではない。

 傷心のエリナーに最初に安らぎをもたらすのは、彼女が聴講生として通い始めた大学の教授フリードマンだといえる。彼女はエリナーが抱える事情を知らない。そしてお互いに、そこに踏み込んだり、告白したりせずに、自然に心を通わせるようになる。そんな関係が支えになり、エリナーは家族とも打ち解けていく。

 コナーは、友人や父親との関係のなかで、近さに依存するのではなく、自立する必要に迫られた。これに対して、区切りを必要としていたエリナーは、家族との関係を通して、両親や妹が、それぞれに問題を抱えながらも、自分たちの居場所を築き、あるいは見出そうとしていることに気づく。そのとき、エリナーのなかにごく自然に、コナーとの幸福な思い出が甦ってくる。そして、居場所を確認するために歩み出す彼女の前に、自立したコナーの背中が見えてくることになる。


(upload:2015/02/16)
 
 
《関連リンク》
ネッド・ベンソン 『ラブストーリーズ コナーの涙』 レビュー ■
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ジェフ・ニコルズ 『テイク・シェルター』 レビュー ■
テイト・テイラー 『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』 レビュー ■
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