ラブストーリーズ コナーの涙
The Disappearance of Eleanor Rigby: Him


2013年/アメリカ/カラー/95分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

男の視点から見たカップルの破局と再生
追いかける男が彼女に背中を見せるまで

 

[ストーリー] コナーが仕事を終えて、アパートに戻ると、そこにエリナーの姿はなかった。「あなたは何もわかっていない」冷たい部屋でひとり天井を見上げているとエリナーに言われた言葉が浮かんでくる。あの時、何て答えれば彼女の気持ちを繋ぎとめることができたんだろう。

 幼い我が子を失ってから、コナーは悲しみをふたりで乗り越えようと、エリナーのそばで支え続けた。それでも、踏み込めなかったエリナーの心のなか。どうすれば、君との日々を取り戻せる?エリナーの行方を探し続け、ようやく会えたコナーだったが――。[プレスより]

 ネッド・ベンソン監督の長編デビュー作は2作品で構成され、ひと組のカップルの破局から再生に至る物語が、男と女それぞれの視点を通して描き出される。2作品はどちらから観ることもできるが、個人的には男の視点である「コナーの涙」から入るのがいいと思う。映画の原題が示唆するように、彼らの物語は、エリナーが姿を消すことが鍵を握る。「エリナーの愛情」から観れば、彼女がどのように姿を消し、なにをしていたのかが明らかになるが、そんな物語の全体像にかかわる部分は、あとで見えてくる方が面白いだろう。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ネッド・ベンソン
Ned Benson
撮影 クリストファー・ブローヴェルト
Christopher Blauvelt
編集 クリスティーナ・ボーデン
Kristina Boden
音楽 Son Lux
 
◆キャスト◆
 
コナー・ラドロー   ジェームズ・マカヴォイ
James McAvoy
エリナー・リグビー ジェシカ・チャステイン
Jessica Chastain
スペンサー・ラドロー キーラン・ハインズ
Ciaran Hinds
スチュアート ビル・ヘイダー
Bill Hader
アレクシス ニーナ・アリアンダ
Nina Arianda
メアリー・リグビー イザベル・ユペール
Isabelle Huppert
-
(配給:ビターズ・エンド/パルコ)
 

 2作品は、逃げる女と追う男をめぐって展開する。エリナーが突然、姿を消せば、コナーが彼女を探すのは自然なことだが、「逃げる」と「追う」の図式には象徴的な意味も含まれる。2作品は導入部からまったく違った展開を見せる。「エリナーの愛情」は、エリナーが川に身を投げるところから始まる。これに対して「コナーの涙」は、夫婦が悲劇に見舞われる前の幸福な思い出から始まる。

 過去を思うコナーは、ふたりで以前のような関係を取り戻すことが望ましいと思っている。それは、逃げるエリナーの背中を見て、彼女を取り戻そうとすることにも繋がっている。だからこの「コナーの涙」では、エリナーの背中を見ていたコナーが、どのようにして彼女に自分の背中を見せられるようになるのかがポイントになる。

 「コナーの涙」と「エリナーの愛情」では、それぞれに異なる人間関係が浮かび上がってくるが、ふたりの主人公と彼らを取り巻く人々との距離は対照的だ。「コナーの涙」では、コナーと彼の友人でレストランのシェフでもあるスチュアート、コナーと彼の父親スペンサーのドラマが描かれるが、彼らの距離はもともと近い。コナーの父親もレストランやバーを経営し、女性との関係も含めて親子には、似た者同士といえるところがある。コナーはそんな関係のなかで、近さに依存するではなく、自立する必要に迫られる。

 コナーがどう変わったのかは、彼の店で食い逃げをした若いカップルを彼が追いかける場面で示される。この映画の冒頭に映し出されるコナーの幸福な思い出は、彼とエリナーの食い逃げから始まっていた。今度は追いかける立場になったコナーがとる行動が彼の変化を物語る。そして彼は、エリナーに自分の背中を見せることになる。


(upload:2015/02/16)
 
 
《関連リンク》
ネッド・ベンソン 『ラブストーリーズ エリナーの愛情』 レビュー ■
キャスリン・ビグロー 『ゼロ・ダーク・サーティ』 レビュー ■
ジェフ・ニコルズ 『テイク・シェルター』 レビュー ■
テイト・テイラー 『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』 レビュー ■
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