現代のフランス社会にとって移民やマイノリティの存在を無視することができないのは、昨年、世界を熱狂させたサッカーのワールド・カップを見ても明らかだろう。頂点に立ったフランス・チームでは、アルジェリア系のジダンを筆頭に移民の血を引く選手たちの活躍が際立っていた。
最近のフランス映画でも、移民とか故郷を離れたり喪失したりした異邦人を主人公にした映画が目立っている。マチュー・カソヴィッツ監督の『カフェ・オ・レ』では、ユダヤ系、アフリカ系、アンティール系の混血という人種の異なる男女の三角関係が描かれ、『憎しみ』では、パリ郊外の低家賃住宅に押し込まれたアフリカ系、アラブ系、
ユダヤ系の若者たちの二十四時間の出来事が描かれる。
クレール・ドゥニ監督の『パリ、18区、夜。』では、リトアニアからパリにやって来た娘の視点を通して移民が多く暮らす地区の人間模様がクールに映しだされる。ロム(ジプシー)系のトニー・ガトリフ監督の『モンド』では、異邦人である少年に対する町の住人たちの感情や空気の変化が繊細に描かれ、
新作の『ガッジョ・ディーロ』では、ロムの村を舞台にドラマが展開していく。
こうした映画からは、移民や異邦人をめぐる様々な状況が見えてくる。たとえば、カソヴィッツの『憎しみ』では、自分の意思で労働力を求めるフランスにやって来た両親の世代に対して、選択の自由もなくそこで生まれ、両親の祖国にもフランスにも帰属意識を持つことができない若い世代のジレンマが、具体的に浮き彫りにされている。
一方、ガトリフの『モンド』では、無垢な少年の世界を詩的に描いた映画のように見えながら、風向きひとつで異邦人に対する感情が変化するような世界に対する危機感が暗示されている。
マニュエル・ポワリエ監督の『ニノの空』も異なる人種や故郷を喪失した異邦人を描く映画だが、この作品では、ニノとパコという主人公を見つめる監督の世界観というものが、またひと味違う魅力を放っている。
ニノとパコは、奇妙な成り行きでそれぞれに愛をめぐって宙吊り状態のような立場となり、そこから始まる旅には、彼らの微妙な感情が滲みだしてくる。かつて婚約者に裏切られ故郷を捨てざるを得なくなったニノは、愛する者と安住の地を求めて彷徨う。仕事を失ったパコは、マリネットに対する答を出すためにニノに付き合い、西へと向かう。
ふたりは、アフリカ系のバチストなど様々な人物に出会い、体験を共有し、次第に絆を深めていく。しかし、こと恋人探しに限ればニノには辛い日々がつづき、パコの協力も裏目に出ることが少なくない。しかしナタリーに出会ったとき、そんなふたりの立場が逆転する。
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