[ストーリー] ニューヨークの下町で代々続く小さな靴修理店を営むマックスは、単調な毎日をはてしなくリピートするように生きてきた中年男。ある日、愛用のミシンが故障し、先祖伝来の旧式ミシンで仕上げた靴を試し履きした彼は、鏡を覗き込んでびっくり仰天。何と自分とは似ても似つかぬその靴の持ち主に変身していたのだ!
かくして"魔法のミシン"を手に入れたマックスは、世代も人種も異なる他人の人生を疑似体験し、かつてない刺激的で痛快な日々を満喫していく。やがてちょっとした親孝行をきっかけに、相次ぐトラブルに見舞われたマックスの行く手には、本当に人生が一変するほどの大事件が待っていた――。[プレスより]
トム・マッカーシー監督にとって4作目の長編になる『靴職人と魔法のミシン』(14)は、それを知らずに観ていたら、筆者にはこの監督の作品だとわからなかっただろう。この映画の世界やそこに見られる話術は、『ステーション・エージェント(原題)』(03)、『扉をたたく人』(07)、『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』(11)で切り拓いてきたものとはまったく違う。
マッカーシー監督のこれまでの作品には共通点があった。ある事情で人を遠ざけるようになった孤独な主人公が、別な事情で孤立している他者と偶然に出会い、次第に心を開き、自分の気持ちに正直に行動するようになる。
『ステーション・エージェント(原題)』では、主人公のフィンが小人症で、好奇の目に晒されたくないという思いが、人を遠ざける原因になっていた。そんな彼は大好きな“鉄道”を媒介として、喪失の痛みを抱える画家や黒人の少女に心を開いていく。
『扉をたたく人』では、ピアニストの妻を亡くし、心を閉ざすようになった大学教授が、偶然に出会ったシリア移民の打楽器奏者と友情を育む。だが、その友人が不法滞在者として収監されたことをきっかけに、現実と他者の痛みに目覚める。この映画では“音楽”が媒介となる。
『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』では、金銭面で苦境に立つ弁護士マイクが、ひょんなことから家出してきた少年カイルに出会い、生活が一変する。お互いに孤立する状況にあった彼らは、“レスリング”を媒介にして接近していく。 |