帰らない日曜日
Mothering Sunday


2021年/イギリス/英語/カラー/104分/ヴィスタサイズ/5.1ch
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(初出:)

 

 

1924年3月の日曜日、彼女の人生が一変した日を手繰り寄せる
孤児のメイドから作家へ、小説『マザリング・サンデー』の映画化

 

[Introduction] 天涯孤独なメイドのジェーンは、英国名家の跡継ぎとの誰にも言えない身分違いの恋に身も心も捧げるが、たった1日がすべてを変えてしまう―。やがて小説家になった彼女は、その1日を生涯かけて手繰り寄せることになる。「最良の想像的文学作品」に与えられるホーソーンデン賞を受賞したグレアム・スウィフトの小説「マザリング・サンデー」を映画化。監督は『バハールの涙』のエヴァ・ユッソン、脚本は『レディ・マクベス』で英国アカデミー賞にノミネートされたアリス・バーチ。

 主人公のジェーンには、今最も期待される新星オデッサ・ヤング。裸で邸を歩き回るシーンにも果敢に挑み、ジェーンの自由を求める心を大胆に表現した。若き英国紳士ポールには、大ヒットTVシリーズ「ザ・クラウン」でチャールズ皇太子役を演じ、ゴールデン・グローブ賞やエミー賞をはじめ各賞を席巻したイギリスの若き才能、ジョシュ・オコナー。愛する兄たちを失った憂いと、ジェーンへの恋慕を瞳に宿すポールを繊細に演じた。さらに、『英国王のスピーチ』のコリン・ファースと、『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマンという、アカデミー賞受賞俳優にして英国の至宝の贅沢な共演が実現。(プレス参照)

[Story] 1924年、初夏のように暖かな3月の日曜日。その日は、イギリス中のメイドが年に一度の里帰りを許される〈母の日〉。けれどニヴン家で働く孤児院育ちのジェーンに帰る家はなかった。そんな彼女のもとへ、秘密の関係を続ける近隣のシェリンガム家の跡継ぎであるポールから、「11時に正面玄関へ」という誘いが舞い込む。幼馴染のエマとの結婚を控えるポールは、前祝いの昼食会への遅刻を決め込み、邸の寝室でジェーンと愛し合う。やがてポールは昼食会へと向かい、ジェーンは一人、広大な無人の邸を一糸まとわぬ姿で探索する。だが、ニヴン家に戻ったジェーンを、思わぬ知らせが待っていた。今、小説家になったジェーンは振り返る。彼女の人生を永遠に変えた1日のことを──。

[以下、とりあえずの短いコメントになります]

 グレアム・スウィフトの原作『マザリング・サンデー』では、主人公ジェーンの体験や回想、あるいは想像だけで物語が綴られ、彼女から視点が離れることはない。そんな構成に忠実に映画化することも不可能ではないだろうが、なかなか難しい。


◆スタッフ◆
 
監督   エヴァ・ユッソン
Eva Husson
脚本 アリス・バーチ
Alice Birch
原作 グレアム・スウィフト
Graham Swift
撮影監督 ジェイミー・D・ラムゼイ
Jamie Ramsay
編集 エイミー・オルシーニ
Emilie Orsini
音楽 モーガン・キビー
Morgan Kibby
 
◆キャスト◆
 
ジェーン・フェアチャイルド   オデッサ・ヤング
Odessa Young
ポール・シェリンガム ジョシュ・オコナー
Josh O'Connor
ゴドフリー・ニヴン コリン・ファース
Colin Firth
クラリー・ニヴン オリヴィア・コールマン
Olivia Colman
ジェーン・フェアチャイルド(老年) グレンダ・ジャクソン
Glenda Jackson
ドナルド ソープ・ディリス
Sope Dirisu
エマ・ホブデイ エマ・ダーシー
Emma D'Arcy
-
(配給:松竹)
 

 本作では、ジェーンがポールと過ごす時間と並行してもうひとつのドラマが描かれる。ジェーンが働くニヴン家のゴドフリーとクラリー夫妻、ポールの両親であるシェリンガム夫妻、そしてポールの婚約者エマの両親であるホブデイ夫妻が集まって、ポールとエマの結婚の前祝いの昼食会を開く。

 だが昼食会は前祝いという雰囲気にはならない。ポールがジェーンと過ごしているためになかなか姿を現さないからということもあるが、それだけではない。ニヴン夫妻はジェームズとフィリップという息子たちを、シェリンガム夫妻はディックとフレディという息子たちを戦争で亡くした。特にクラリーは喪失の悲しみに深くとらわれている。

 原作では、クラリーはジェーンの回想にわずかに登場するだけだが、本作では彼女がジェーンと対置されていると見ることもできる。クラリーは自分がもはや失うだけの人生を生きていると考え、絶望している。そんな彼女は、孤児で天涯孤独のジェーンにはなにも失うものがなく、そこに希望があるかのように語る。彼女には、ジェーンがそのときに喪失の悲劇に直面していることなど知る由もない。ただし、ジェーンの場合には、その関係が最初から階級という壁に阻まれていたので、同じように喪失と表現してしまうのは適切ではないかもしれない。

 ジェーンとポール、あるいはジェーンと後に彼女の夫になるドナルドの関係を踏まえると、クラリーは失うことで生きる気力を無くし、ジェーンは失うことで作家として前進していくことになる。

《参照文献》
『マザリング・サンデー』 グレアム・スウィフト●
真野泰訳(新潮社、2018年)

(upload:2022/04/29)
 
 
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