「これは二年間の就業ビザで(更新可能)、雇用主は一人五〇〇〇シンガポールドルの保証金を政府に収め(帰国時に返還)、家族同伴は認められない。メイドは半年ごとに妊娠検査を義務付けられ、妊娠すると強制送還される。また、シンガポール人と結婚を望んだ場合、労働省の許可を必要とする。政府が、このタイプの外国人労働者を厳しく管理しようとしたのは、彼らの定住によってシンガポールの知的水準が低下することを懸念したからである」
もうひとつは、シンガポールの中間層の性格だ。同書ではアジア13ヶ国を対象としたアンケートを資料として、以下のように説明されている。「このアンケートが語るように、シンガポールの中間層は、現状維持を志向する保守的性格が強い人が多数派を占め、彼らは、人民行動党の統治が権威主義的で厳しくても、この政府があってこそ自分たちの現在の豊かな性格があると受け止めていたのである」
この映画に登場する夫婦も共働きで、わがままな一人息子ジャールーに手を焼き、フィリピン人のテレサを雇う。夫婦は政府主導の発展の恩恵に浴し、豊かさを求めて迷いなく生きている。だが、そこにアジア通貨危機という逆風が吹き、意識が変化していく。
不況でリストラされ、株で大損したことを家族に打ち明けられない父親は、厳しい規制や管理のもとで働くテレサに親近感を覚える。孤独なジャールーは、息子と離れて異国で働かなければならないテレサの心情を察し、心を開くようになる。一方、仕事に追われ、メイドに息子を奪われたような疎外感に苛まれる母親は、希望を謳う自己啓発セミナーに引き寄せられていく。
さらに、ドラマに盛り込まれた独特のユーモアも見逃せない。失業した父親は苛立ちを抑えられずに、息子が熱中するたまごっちを車から投げ捨ててしまい、その代わりに息子の誕生日に数羽のひよこを贈る。そして、ひよこの成長とともに、家族も血の通った関係に目覚めていくことになる。
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