スティーブン・ソダーバーグの新作『インフォーマント!』は、自分が重役を務める大企業やFBIを大混乱に陥れた内部告発者マーク・ウィテカーの実話に基づくコメディだ。この人物が世間を騒然とさせる事件を引き起こしたのにはそれなりの理由がある。彼は双極性障害(躁うつ病)を患っていたのだ。
そんな実話をコメディに仕立てるのはいささか不謹慎かもしれない。というよりもそれ以前に、主人公を双極性障害を患う人物ととらえ、躁とうつの両面を描いていく時点で、おそらくはコメディとして成り立たなくなることだろう。
だが、こうもいえる。もしウィテカーを取り巻く人々が、彼が精神的な病を患っていることを見抜いていれば、これほどの大事件に発展することはなかったかもしれない。ソダーバーグはその部分にコメディの要素を見出す。そうなると、ウィテカーの実話はソダーバーグにとって格好の題材となる。なぜなら彼が関心を持っているのは、原因と結果があるストーリーよりもむしろ、個人とその人物を取り巻く状況の関係であるからだ。
工場で起きている問題の処理を命じられたウィテカーは、日本企業のスパイによる妨害と脅迫を受けていると報告する。会社のトップはFBIに介入を要請するが、ウィテカーはなにを思ったか捜査官に対して自社の違法行為を暴露し、内部告発者に豹変する。
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