インフォーマント!
The Informant!  The Informant!
(2009) on IMDb


2009年/アメリカ/カラー/108分/ヴィスタ/ドルビーSRD・DTS・DTTS
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(初出:月刊「宝島」2010年1月号、「試写室の咳払い」04、若干の加筆)

 

 

何(誰)が彼をトラブルメイカーに変えるのか

 

 スティーブン・ソダーバーグの新作『インフォーマント!』は、自分が重役を務める大企業やFBIを大混乱に陥れた内部告発者マーク・ウィテカーの実話に基づくコメディだ。この人物が世間を騒然とさせる事件を引き起こしたのにはそれなりの理由がある。彼は双極性障害(躁うつ病)を患っていたのだ。

 そんな実話をコメディに仕立てるのはいささか不謹慎かもしれない。というよりもそれ以前に、主人公を双極性障害を患う人物ととらえ、躁とうつの両面を描いていく時点で、おそらくはコメディとして成り立たなくなることだろう。

 だが、こうもいえる。もしウィテカーを取り巻く人々が、彼が精神的な病を患っていることを見抜いていれば、これほどの大事件に発展することはなかったかもしれない。ソダーバーグはその部分にコメディの要素を見出す。そうなると、ウィテカーの実話はソダーバーグにとって格好の題材となる。なぜなら彼が関心を持っているのは、原因と結果があるストーリーよりもむしろ、個人とその人物を取り巻く状況の関係であるからだ。

 工場で起きている問題の処理を命じられたウィテカーは、日本企業のスパイによる妨害と脅迫を受けていると報告する。会社のトップはFBIに介入を要請するが、ウィテカーはなにを思ったか捜査官に対して自社の違法行為を暴露し、内部告発者に豹変する。


◆スタッフ◆
 
監督   スティーブン・ソダーバーグ
Steven Soderbergh
脚本 スコット・Z・バーンズ
Scott Z. Burns
原作/製作 カート・アイケンウォルド
John Carlin
製作総指揮 ジョージ・クルーニー
George Clooney
撮影 ピーター・アンドリュース(スティーブン・ソダーバーグ
Peter Andrews
編集 スティーブン・ミリオン
Stephen Mirrione
音楽 マービン・ハムリッシュ
Marvin Hamlisch
 
◆キャスト◆
 
マーク・ウィテカー   マット・デイモン
Matt Damon
ブライアン・シェパード捜査官 スコット・バクラ
Scott Bakula
ボブ・ハーンドン捜査官 ジョエル・マクヘイル
Joel McHale
ジンジャー・ウィテカ メラニー・リンスキー
Melanie Lynskey
アレクサンダー・ウィテカー ルーカス・キャロル
Lucas Carroll
カーク・シュミット エディ・ジェイミソン
Eddie Jamison
-
(配給:ワーナー・ブラザース映画)

 ウィテカーを演じるマット・デイモンは、体重を15キロ増やし、カツラをつけ、善と悪の境界を曖昧にするつかみどころのないキャラクターを作り上げている。

 この映画に描き出されるのは、ほとんどが躁状態にあるウィテカーであり、彼の心のつぶやきも耳にする観客には、どこかおかしいことがわかってくる。だが、本人は病気を自覚していないし、周囲の人々も気づかない。躁状態の彼は、次々にアイデアを思いつき、秘密情報部員を気取りだす。上司や捜査官は、そんな彼に活躍の舞台を提供してしまう。

 ソダーバーグの作品には、自分の意思ではなく、記憶や状況に影響され、思わぬ行動をとる人物がしばしば登場する。この映画は、そうした作品のなかでも『スキゾポリス』に近い。この映画で、一人二役同士の男女によって演じられる不倫のドラマは、同じに見える人間の存在を状況が決定していくことを物語る。さらに、スパイの疑いをかけられて会社を首になった男は、周りに操られるように変貌を遂げ、最後に会社に大打撃を与えることにもなる。

 『インフォーマント!』のウィテカーが状況に左右される人物だとするなら、彼をとんでもないトラブルメイカーに変えていくのは、この主人公を取り巻く人々だと考えることもできる。


(upload:2010/09/14)
 
 
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