幸せへのキセキ
We Bought a Zoo  We Bought a Zoo
(2011) on IMDb


2011年/アメリカ/カラー/124分/ヴィスタ/ドルビーSR・SRD
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(初出:Into the Wild 2.0 大場正明ブログ、2012年5月14日更新、加筆)

 

 

身近な世界に“冒険”を見出し
家族と共有することで“喪失”を乗り越える

 

 キャメロン・クロウ監督の新作『幸せへのキセキ』は実話に基づいている。原作は、イギリス人のジャーナリスト、ベンジャミン・ミーが書いた『幸せへのキセキ〜動物園を買った家族の物語』(興陽館刊)。著者とその家族が、リスクを背負って荒廃した動物園を買い取り、動物たちを救い、喪失を乗り越えて新たな生活に踏み出していく物語だ。

 これまでずっとオリジナルの脚本で作品を作ってきたクロウにとって、はじめての原作モノということになるが、映画のプロダクション・ノートのなかに個人的に非常に興味をそそられる記述があった。

 クロウは、売れっ子のマット・デイモンに主人公のベンジャミン役をオファーするにあたって、「脚本と一緒に、1時間近い音楽のセレクションと、『ローカル・ヒーロー/夢に生きた男』(83)のソフトを送る」というユニークな方法をとったというのだ。

 以前ブログにアップした「80年代イギリス映画を振り返る その一」でも触れているように、筆者はビル・フォーサイスの『ローカル・ヒーロー』にかなりの愛着がある。『幸せへのキセキ』のプレス資料に目を通したのは試写のあと、帰宅してからだったが、あらためて映画を振り返ってみるといろいろ頷けてくる。

 『ローカル・ヒーロー』で、用地買収のために主人公が訪れるスコットランドの田舎町のちょっと風変わりな住人たちが、この映画では、ベンジャミンが購入した動物園の飼育員チーム(確かに風変わりな連中ばかり)になる。足に水かきのある女性研究員が、こちらでは飼育員チームのチーフであるケリー(スカーレット・ヨハンソン)で、マーク・ノップラー(ダイアー・ストレイツ)のサントラが、ヨンシー(シガー・ロス)のサントラということになる。余談ながら、ヨンシーのスコアの他に、ちょっと流れるボン・イヴェールも印象的だった。

 もちろんクロウがそこまで具体的に意識していたわけではないと思うが、確かにこの映画には『ローカル・ヒーロー』に通じるほのぼのとした空気を感じる。

 しかし、実は筆者は、映画を観ているときには、同じく80年代に作られた別の映画のことを連想していた。それはローレンス・カスダン監督がアン・タイラーの同名小説を映画化した『偶然の旅行者』(88)だ。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/製作   キャメロン・クロウ
Cameron Crowe
脚本 アライン・ブロシュ・マッケンナ
Aline Brosh McKenna
原作 ベンジャミン・ミー
Benjamin Mee
撮影 ロドリゴ・プリエト
Rodrigo Prieto
編集 マーク・リヴォルシ
Mark Livolsi
音楽 ヨンシー
Jonsi
 
◆キャスト◆
 
ベンジャミン・ミー   マット・デイモン
Matt Damon
ケリー・フォスター スカーレット・ヨハンソン
Scarlett Johansson
ダンカン・ミー トーマス・ヘイデン・チャーチ
Thomas Haden Church
ディラン・ミー コリン・フォード
Colin Ford
ロージー・ミー マギー・エリザベス・ジョーンズ
Maggie Elizabeth Jones
ピーター・マクレディ アンガス・マクファーデン
Angus Macfadyen
リリー・ミシュカ エル・ファニング
Elle Fanning
ロビン・ジョーンズ パトリック・フュジット
Patrick Fugit
ウォルター・フェリス ジョン・マイケル・ヒギンズ
John Michael Higgins
-
(配給:20世紀フォックス映画)
 

 2本の映画は、物語の前提として喪失があり、主人公が風変わりな人物たちに囲まれ、ほのぼのとした空気が漂っているだけではなく、主人公の世界とその変化が独特の視点で描き出されている。

 『偶然の旅行者』の主人公メーコン・リアリーの職業は、旅行ガイドブックのライターだが、その内容はちょっと変わっている。彼の書くガイドブックは、観光目的の旅行者のためのものではなく、商用や出張などで仕方なく外国に行かなければならない旅行者=アクシデンタル・ツーリストのためのもの。外国に行っても我が家の書斎の椅子にすわっているかのような気分で旅行をすませられるノウハウが書かれたガイドブックなのだ。

 実は彼は旅行嫌いで、その体質がひょんなことからお金に結びつくことになったのがこの職業だった。いわば彼は、どこに行っても、どこにも行かなかったかのような生き方ができる達人ということになる。

 そんなメーコンは、離婚して女手ひとつで障害をかかえた子供を育てる犬の調教師(ジーナ・デイビス)と出会うことによって変わっていく。どんな場所に行っても必要最低限のものしか見ようとしなかった彼が、見慣れた風景に囲まれた自分の足元から、旅行者の感情を発見していくとでもいえばいいだろうか。

 『幸せへのキセキ』は、主人公ベンジャミンが、ヘリに乗って最大級のハリケーンの真っ只中に突っ込もうとするところから始まる。彼は現代における冒険を求めるジャーナリストで、そのために子どもたちを置いて、世界を飛び回っている。

 そんな彼が、偶然に荒廃した動物園を買い取り、飼育員のケリーに出会い、動物たちに触れることで変わっていく。彼は、日常とは隔てられた世界を求め、日常を見ていなかったが、実は自分が求めていた冒険が、身近な場所にあり、それを家族と共有できることに気づく。

 ベンジャミンのこうした世界の変化を、独特のほのぼのとした空気のなかに描き出しているところにこの映画の魅力がある。

(upload:2012/12/15)
 
 
《関連リンク》
『幸せへのキセキ』 公式サイト
『幸せへのキセキ』 試写室日記
『エリザベスタウン』 レビュー ■
サッチャリズムとイギリス映画――社会の急激な変化と映画の強度の関係 ■

 
 
 
 
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