自伝的な青春映画『あの頃ペニー・レインと』に描かれているように、キャメロン・クロウは、かつてロック・ジャーナリストの仕事をしていた。それだけに、彼の映画には、ドラマの時代背景や舞台、登場人物たちの感情などと結びつく様々な曲が散りばめられている。しかし、彼の映画の魅力は、音楽だけではない。筆者が特に興味をそそられるのは、"飛行機"に対する彼の奇妙なこだわりだ。
たとえば、『あの頃ペニー・レインと』のドラマには、それが端的に現れている。主人公ウィリアムの姉は、フライト・アテンダントになるために家を出ていく。ウィリアムを魅了するペニー・レインは、なぜかフライト・アテンダントの機内アナウンスの物真似を得意にしている。
彼が行動をともにするバンド、スティルウォーターは、最初はバスで移動しているが、やがてそれが飛行機に変わる。ところが、あわや墜落という恐ろしい目にあい、最後は"もう飛行機に乗らないツアー"に出る。さらに、ウィリアムとペニーの別れや旅立ちもまた、飛行機が絡んでいる。
こうした飛行機へのこだわりは、この映画ほど目立つことはないものの、それ以前の作品にも見られた。クロウの監督デビュー作『セイ・エニシング』で、主人公のロイドが果敢にアタックする優等生のダイアンは、飛行機恐怖症であり、二人の恋がその克服に繋がっていく。『ザ・エージェント』では、主人公ジェリーと同じ会社の経理部で働くドロシーが、同じ飛行機に乗り合わせ、ターミナルで話をすることが、その後の展開の伏線となる。
もちろん、この程度のエピソードでは、こだわりというには不十分だが、『あの頃ペニー・レインと』に続く『バニラ・スカイ』を観れば、クロウが飛行機を意識する理由がより明確になるはずだ。この映画では、飛行機を使わずにそのこだわりが表現されている。高所恐怖症の主人公デイヴィッドは、"バニラ・スカイ"というタイトルが象徴する夢の世界を生き、現実を取り戻すためにはそこから飛び降りなければならないのだ。 |