エリザベスタウン
Elizabethtown  Elizabethtown
(2005) on IMDb


2005年/アメリカ/カラー/124分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:cine-pause.com)

 

 

主人公の内面を象徴する飛行のイメージ

 

 自伝的な青春映画『あの頃ペニー・レインと』に描かれているように、キャメロン・クロウは、かつてロック・ジャーナリストの仕事をしていた。それだけに、彼の映画には、ドラマの時代背景や舞台、登場人物たちの感情などと結びつく様々な曲が散りばめられている。しかし、彼の映画の魅力は、音楽だけではない。筆者が特に興味をそそられるのは、"飛行機"に対する彼の奇妙なこだわりだ。

 たとえば、『あの頃ペニー・レインと』のドラマには、それが端的に現れている。主人公ウィリアムの姉は、フライト・アテンダントになるために家を出ていく。ウィリアムを魅了するペニー・レインは、なぜかフライト・アテンダントの機内アナウンスの物真似を得意にしている。

 彼が行動をともにするバンド、スティルウォーターは、最初はバスで移動しているが、やがてそれが飛行機に変わる。ところが、あわや墜落という恐ろしい目にあい、最後は"もう飛行機に乗らないツアー"に出る。さらに、ウィリアムとペニーの別れや旅立ちもまた、飛行機が絡んでいる。

 こうした飛行機へのこだわりは、この映画ほど目立つことはないものの、それ以前の作品にも見られた。クロウの監督デビュー作『セイ・エニシング』で、主人公のロイドが果敢にアタックする優等生のダイアンは、飛行機恐怖症であり、二人の恋がその克服に繋がっていく。『ザ・エージェント』では、主人公ジェリーと同じ会社の経理部で働くドロシーが、同じ飛行機に乗り合わせ、ターミナルで話をすることが、その後の展開の伏線となる。

 もちろん、この程度のエピソードでは、こだわりというには不十分だが、『あの頃ペニー・レインと』に続く『バニラ・スカイ』を観れば、クロウが飛行機を意識する理由がより明確になるはずだ。この映画では、飛行機を使わずにそのこだわりが表現されている。高所恐怖症の主人公デイヴィッドは、"バニラ・スカイ"というタイトルが象徴する夢の世界を生き、現実を取り戻すためにはそこから飛び降りなければならないのだ。


◆スタッフ◆

監督/脚本/製作   キャメロン・クロウ
Cameron Crowe
製作 トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー
Tom Cruise, Paula Wagner
撮影 ジョン・トール
John Toll
編集 デイヴィッド・モリッツ
David Moritz
音楽 ナンシー・ウィルソン
Nancy Wilson

◆キャスト◆

ドリュー・ベイラー   オーランド・ブルーム
Orlando Bloom
クレア・コルバーン キルスティン・ダンスト
Kirsten Dunst
ホリー・ベイラー スーザン・サランドン
Susan Sarandon
フィル アレック・ボールドウィン
Alec Baldwin
ビル・バニヨン ブルース・マッギル
Bruce McGill

(配給:UIP)
 


 クロウの映画の主人公たちは、夢や理想と失意や逃避が交錯する曖昧な世界に踏み出し、迷い悩みながら壁を乗り越え、最後に現実に目覚める。飛行機はその曖昧な世界と結びつき、ドラマに独特の浮遊感を生み出していく。

 新作の『エリザベスタウン』も、そんなことを踏まえてみると、クロウならではのドラマになっていることがわかるだろう。自分がデザインを手がけたスニーカーで10億ドルの損失を出してしまったドリューは、自殺を決意するが、そんなところに、ケンタッキーの親戚を訪ねていた父親が急死したという知らせが届く。彼は自殺を延期し、父親の遺言を守るためにケンタッキーへと旅立つ。そして、飛行機に乗り込んだ彼が出会うのが、フライト・アテンダントのクレアなのだ。

 この飛行機の場面は、非常にシュールなタッチで描かれている。乗客もフライト・アテンダントも一人だけで、彼女は積極的に語りかけてくるが、どん底の彼にはそれに答える余裕がない。親戚を訪ねた彼は、南部の不慣れな土地で次第に孤独に苛まれ、クレアと会うようになる。しかし、曖昧な世界のなかで煩悶する彼と彼女の間には、越え難い隔たりがある。そんな彼は、彼女から贈られた地図やCDに導かれるように、飛行機ではなく車でアメリカを旅していくことによって、現実に目覚め、再生を果たすのだ。


(upload:2007/01/28)
 
 
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