不都合な理想の夫婦
The Nest


2020年/イギリス/英語/カラー/107分/ヴィスタ/5.1ch
line
(初出:)

 

 

孤立にすら気づかずひたすら成功者を演じつづける男
洗脳としてのアメリカン・ドリームを描く異色スリラー

 

[Introduction] アメリカからイギリスに凱旋し、豪邸で子供たちと裕福な生活を送る”理想の夫婦”の崩壊劇を極限まで描く虚飾と野望の心理スリラー。サンダンス映画祭でプレミア上映され、英国インディペンデント映画賞では6部門にノミネートを果たす。主人公のルーニーを演じ、製作総指揮にも名を連ねるのは『ファンタスティック・ビースト』や『シャーロック・ホームズ』シリーズなどで熱烈な人気を誇るジュード・ロウ。その妻役を演じたキャリー・クーンは、「FARGO/ファーゴ3」でエミー賞にノミネートされ、近年は『ゴーストバスターズ/アフターライフ』などの話題作への出演が続く。監督は『マーサ、あるいはマーシー・メイ』でサンダンス映画祭の監督賞を受賞したショーン・ダーキン。英米の両国で暮らした体験から、自身で感じた文化的な差異をもとに脚本を手掛けた。(プレス参照)

[Story] 1986年。ニューヨークで貿易商を営むイギリス人のローリー・オハラは、アメリカ人の妻アリソンと、妻の連れ子だった長女サムとふたりの息子ベンの四人で幸せに暮らしていた。満ち足りた生活を送っているように思えたが、大金を稼ぐ夢を追って、好景気に沸くロンドンへの移住を妻に提案する。かつての上司アーサー・デイヴィスが経営する商社に舞い戻ったローリーは、その才能を周囲から評価され、復帰を歓迎される。プライベートではロンドン郊外に豪邸を借り、息子を名門校に編入させ、妻には広大な敷地を用意。それはまるで、アメリカン・ドリームを体現した勝者の凱旋のようだった。しかし、ある日、アリソンは馬小屋の工事が進んでいないことに気付く。業者に問い合わせると、支払いが滞っており、更には驚くべきことに新生活のために用意をしていた貯金が底を突いている事を知ってしまうのだった...。

[レビューは準備中です、とりあえず簡単に印象に残ったことを以下に]

 スタッフのなかで見逃せないのが、撮影にハンガリーのブダペスト出身のマーチャーシュ・エルデーイを起用していること。彼は、同じくブダペスト出身のネメシュ・ラースロー監督の2作品、アウシュヴィッツ収容所のゾンダーコマンドを主人公にした『サウルの息子』(15)、第一次世界大戦前夜のオーストリア=ハンガリー帝国を舞台にした『サンセット』(18)で注目された。独特の陰鬱な空気を醸し出すような色調が本作でも生かされている。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/製作   ショーン・ダーキン
Sean Durkin
撮影 マーチャーシュ・エルデーイ
Matyas Erdely
編集 マシュー・ハンナム
Matthew Hannam
音楽 リチャード・リード・パリー
Richard Reed Parry
 
◆キャスト◆
 
ローリー・オハラ   ジュード・ロウ
Jude Law
アリソン・オハラ キャリー・クーン
Carrie Coon
サム・オハラ ウーナ・ロッシュ
Oona Roche
ベン・オハラ チャーリー・ショットウェル
Charlie Shotwell
スティーヴ アディール・アクタル
Adeel Akhtar
アーサー・デイヴィス マイケル・カルキン
Michael Culkin
-
(配給:キノシネマ)
 

 ちなみに、ショーン・ダーキンの前作『マーサ、あるいはマーシー・メイ』で製作を務めたジョシュ・モンドには、『ジェームズ・ホワイト(原題)』(15)という監督作があり、その作品でモンドがマーチャーシュ・エルデーイを起用しているので、そんな繋がりからダーキンが本作でエルデーイを起用したのかもしれない。エルデーイの色調とダーキンのテンポが相まって、主人公ローリー、あるいは家族が豪邸という檻に閉じ込められ、身動きがとれなくなっていくような印象を与える。ある意味、ホラーともいえる。

 本作と前作『マーサ、あるいはマーシー・メイ』は、設定はまったくことなるが、共通点があるように思う。前作でカルト集団の農場を抜け出したヒロインのマーサは、湖畔の豪華な貸別荘で休暇を過ごす姉夫婦のところに転がり込む。しかし、洗脳された彼女の精神状態は不安定で、現在とマーシー・メイという別の名前で過ごした過去、現実と幻想の区別がつかなくなっていく。

 本作でイギリスに、あるいは古巣に戻ったローリーも、アメリカン・ドリームに洗脳され、会社を売却することで得られるような目先の利益だけを追い求め、見せかけだけの裕福な暮らしに溺れ、現実と幻想の狭間で引き裂かれていく。

▼ 主人公ローリーを演じたジュード・ロウは製作総指揮にも名を連ねている。

 

(upload:2022/04/09)
 
 
《関連リンク》
ショーン・ダーキン 『マーサ、あるいはマーシー・メイ』 レビュー ■
トッド・ヘインズ 『SAFE』 レビュー ■
デヴィッド・フィンチャー 『ゴーン・ガール』 レビュー ■
ネメシュ・ラースロー『サウルの息子』レビュー ■

 
 
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