短編『Zand/Sand』(08)がヴェネチア国際映画祭その他、各国で高く評価されたオランダの新鋭ヨースト・ファン・ヒンケル監督の長編デビュー作です。
愛し合う若い男女ニックとエヴィの逃避行が描かれます。ふたりはともに聾唖者で、彼らの間に台詞はなく、手話でのコミュニケーションになります。彼らはそれぞれに経済的には裕福な家庭で生活していますが、ニックと父親との間には深い確執があり、ニックは自動車修理工場で働いています。
そんなニックと恋に落ちたエヴィは次第に父親と対立するようになり、ふたりの逃避行が始まります。しかし、エヴィはそれを一時的な行動と考え、ニックは永遠と考えていたため、親密な関係にズレが生じるようになります。
ファン・ヒンケル監督はリアリズムに縛られない独自の映像表現で逃避行を描いています。ふたりが隠れ家にするのは、打ち捨てられた潜水艦です。ニックが父親の幻影にまといつかれたり、ニックとエヴィがお互いの裸体に赤いペンキを浴びせ、身体を重ねるというような、幻想的なシーンも盛り込まれています。
聾唖者を主人公にしたドラマというと、ミロスラヴ・スラボシュピツキー監督の『ザ・トライブ』(14)が思い出されます。比べてみると、やはり『ザ・トライブ』の方がコンセプトがしっかりしています。こちらは、映像表現には力が入っていますが、話術や構成には詰めの甘さを感じます。
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