悪魔を見た
I Saw the Devil


2010年/韓国/カラー/144分/アメリカンヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:「eiga.com」2011年2月22日更新)

 

 

殺人鬼は熱く激しくなり、
復讐者は冷たく凍りついていく

 

 復讐者が思いを遂げたと確信できる一線はどこにあるのか。どこまでやれば加害者が被害者と同じ痛みや苦しみ、あるいはそれ以上のものを味わったことになるのか。

 時間がたんまりあれば、目的や一線をある程度、明確にすることもできる。たとえば、パク・チャヌクの『オールド・ボーイ』では、復讐者が15年を費やして対象を自分と似た境遇に陥れ、痛みや苦しみを思い知らせようとする。

 ドゥニ・デルクールの『譜めくりの女』では、ピアノの実技試験で夢を打ち砕かれた少女が十数年後に人気ピアニストの前に現われ、譜めくりとなってじわじわと追い詰めていく。F・ゲイリー・グレイの『完全なる報復』の復讐者は10年を費やし、加害者を惨殺するだけではなく、司法制度に戦争を仕掛ける。

 『悪魔を見た』の復讐者、婚約者の命を奪われた国家情報院捜査官スヒョンにはそんな時間の余裕はない。だが、確保した殺人鬼を徹底的に痛めつけ、息の根を止めるだけで思いを遂げられるとも考えていない。だから限られた時間を強引に引き延ばそうとする。

 故意に犯人を泳がせ、新たな犯行に及んだ男が欲望を満たす直前に厳しい制裁を加え、再び放り出す。犠牲者になりかかる女性の心情も気にかけないその冷徹な姿勢には、すでに狂気を垣間見ることができるだろう。

 ニーチェの有名な言葉の引用にあるように、悪に挑む者が自分も闇にとらわれてしまう話はよくあるが、この復讐劇はそれほど単純ではない。たとえば、クリストファー・ノーランの『ダークナイト』で、バットマンが強くなるほどにジョーカーが悪辣になったように、この映画でも復讐者が悪魔を目覚めさせる。


◆スタッフ◆
 
監督   キム・ジウン
Kim Jee-woon
脚本 パク・フンジョン
Pak Hoon-jung
撮影 イ・モゲ
Lee Mogae
編集 ナム・ナヨン
Nam Na-young
音楽 モグ
Mowg
 
◆キャスト◆
 
スヒョン   イ・ビョンホン
Lee Byung-hun
ギョンチョル チェ・ミンシク
Choi Min-sik
ジュヨン オ・サナ
Oh San-ha
チャン チョン・グックァン
Chun Kook-haun
オ課長 チョン・ホジン
Chun Ho-jin
セヨン キム・ユンソ
Kim Yoon-seo
テジュ チェ・ムソン
Choi Moo-seong
セジョン キム・インソ
Kim In-seo
-
(配給:ブロードメディア・スタジオ)
 

 それにしてもこのふたりの温度差は凄まじい。殺人鬼は痛めつけられるほどに、快楽を見出してどんどん熱く激しくなり、復讐者は男を追えば追うほど冷たく凍りついていく。復讐者はそんな男から痛みの感情を引き出せない限り、心が融けることもないが、男のなかに人間を見ることができたときには、自分の世界が牢獄に変わっている。

 キム・ジウン監督は、凄惨な描写や救いのない展開に対する拒絶反応を恐れず、“復讐”を突き詰め、この世の地獄を描き出してみせる。


(upload:2011/11/24)
 
 
《関連リンク》
パク・チャヌク 『オールド・ボーイ』 レビュー ■
ドゥニ・デルクール 『譜めくりの女』 レビュー ■
F・ゲイリー・グレイ 『完全なる報復』 レビュー ■
クリストファー・ノーラン 『ダークナイト』 レビュー ■

 
 
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