ウィルダネス / ハンサム・ファミリー
Wilderness / The Handsome Family (2013)


 
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(初出:)

 

 

様々な生き物と自然を入口にして
埋もれた歴史に分け入り、人間の心の闇を炙り出す

 

 近年ではニューメキシコを拠点に活動している夫婦デュオ、ハンサム・ファミリーにとって『Wilderness』は10枚目のアルバムになる。収録された曲には、すべて鳥や爬虫類など生き物の名前がつけられているが、ゴシックな世界観を特徴とする彼らが、ただ生き物や自然の世界を歌うはずもない。

 アルバムの9曲目<Woodpecker>を聴いて、ある映画のことを思い出した。『博士と彼女のセオリー』(14)、『シャドー・ダンサー』(11)、『キング 罪の王』(05)などの作品で知られるジェームズ・マーシュ監督のデビュー作『ウィスコンシン・デス・トリップ(原題)/Wisconsin Death Trip』(99)のことだ。

 この映画の元ネタになっているのは、歴史家マイケル・レイシーが1973年に出版した同名の書物だ。ウィスコンシン州の町ブラック・リバー・フォールズで1890年代の様々な出来事をとらえた衝撃的なモノクロ写真の山を発見した彼は、それを当時の新聞記事の抜粋と組み合わせて本にした。その本には、不況や厳しい気候、伝染病などが原因で起こった様々な悲劇が浮き彫りにされていた。

 その本に登場する人物のひとりが、狂気にとらわれた女性教師メアリー・スウィーニーで、彼女は、コカインをやりながら旅をして、窓ガラスを次々と割りつづけた。このアルバムの9曲目<Woodpecker>の歌詞に登場する“Lovely Mary Sweeney, the famous window smasher”とはその女性のことで、ブレットとレニーのコンビは彼女のことを「キツツキ」にたとえて歌っている。しかも、マンドリンが牧歌的に響いていたりして、一見そんな世界を描いているとは思わせない。

 この1曲を掘り下げただけでも、彼らが飛び抜けてユニークな感性を持っていて、独自の世界を切り拓いていることがわかってもらえるだろう。


◆Jacket◆
 
◆Track listing◆

01.   Flies
02. Frogs
03. Eels
04. Octopus
05. Owls
06. Caterpillars
07. Glow Worm
08. Lizard
09. Woodpecker
10. Gulls
11. Spider
12. Wildebeest

◆Personnel◆

The Handsome Family: Brett Sparks - vocals, most instruments; Rennie Sparks - vocals; David Gutierrez - guitar, pedal steel guitar, mandolin; Jason Toth - percussion; Ted Jurney - bass; Stephen Dorocke - violin;

(Carrot Top)
 

 

(upload:2015/12/15)
 
 
《関連リンク》
The Handsome Family official site
ハンサム・ファミリー 『Honey Moon』 レビュー ■
ハンサム・ファミリー 『Last Days of Wonder』 レビュー ■
ハンサム・ファミリー 『Singing Bones』 レビュー ■
ハンサム・ファミリー 『In the Air』 レビュー ■
ハンサム・ファミリー 『Through the Trees』 レビュー ■
アンドリュー・バード
『Things Are Really Great Here, Sort Of...』 レビュー
■
アンドリュー・バード 『Break It Yourself』 レビュー ■
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