ニューヨークを拠点に活動するインド系ジャズ・ピアニスト、ヴィジェイ・アイヤー。『ヒストリシティ/Historicity』、『アッチェレランド/Accelerando』につづくピアノ・トリオの第三弾です。ECMレーベルからの初リリースとなった前作『ミューテーションズ/Mutations』が、ピアノ、エレクトロニクスと弦楽四重奏のユニットによる作品だったので、ECMからは初のトリオ作品ということになります。メンバーは、ベースのステファン・クランプ、ドラムスのマーカス・ギルモア、すでに10年以上活動をつづけている鉄壁のトリオといえます。
アイヤーのオリジナルのほかに、セロニアス・モンクの<Work>、ビリー・ストレイホーンの<Blood Count>、ジョン・コルトレーンの<Countdown>などが取り上げられています。
アイヤーは以前から、エレクトリック・ミュージックやヒップホップにも関心を持ち、積極的にアプローチしてきました。<Hood>は、デトロイトのエレクトリック・ミュージックのプロデューサー/DJ、ロバート・フッドにインスパイアされた曲です。アイヤーはトリオの前作『アッチェレランド/Accelerando』でフライング・ロータスの<Mmmhmm>を取り上げていましたが、それに通じる関心とアプローチを見ることができます。
1曲目の<Starlings>=ムクドリ、10曲目の<Geese>=ガン[ガチョウ]、12曲目の<Wrens>=ミソサザイで、鳥の名前がタイトルになっているのは偶然ではありません。アイヤーはこれまで様々なマルチメディア・パフォーマンスを繰り広げてきましたが、この3曲も、ナイジェリア生まれでアメリカで活動する小説家テジュ・コール(Teju Cole)とのコラボレーション“オープン・シティ(Open City)”から生まれた作品が土台になっています。『オープン・シティ』はテジュ・コールの最初の小説で、ニューヨークを巡る旅の物語には、マンハッタンに生息する鳥の眼差しが盛り込まれています。その他者の眼差しは、人種やアイデンティティとも結びついています。
<Mystery Woman>は、南インドのムリダンガム奏者Rajna Swaminathanとのコラボレーションが出発点になっている楽曲で、アイヤーのインド系というルーツと関わっているといえます。 |