The Whole Tree Gone / Myra Melford's Be Bread
The Whole Tree Gone / Myra Melford's Be Bread (2010)


 
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(初出:Into the Wild 2.0 | 大場正明ブログ 2011年7月15日更新)

戦争と自然、9・11以後とイラク戦争
繊細なアンサンブルに込められた意味を探る

 『The Whole Tree Gone』は、 ジャズ・ピアニスト/コンポーザーのマイラ・メルフォード(Myra Melford)のユニットBe Breadにとって2枚目のアルバムになる。 そのタイトルについては、環境問題やエコロジーを意識しているのではないかと考える人もいるだろう。

 ずいぶん昔の話になるが、彼女がジャズに完全に目覚める前に大学で選考していたのは環境科学だった。だからそういうことに関心を持っていてもまったく不思議ではない。しかし、このタイトルにはもっと深い意味が込められているように思う。

 同じBe Bread名義のアルバムでも、前作の『The Image of Your Body』(06)とこのアルバムでは、そのスタイルやサウンドに大きな違いがある。 前作では、Brandon Ross, Stomu Takeishi, Cuong Vuが、ギター、ベース、その他でエレクトリックなサウンドを盛り込んでいた。

 ところが、このアルバムでは、ほとんどアコースティックなサウンドに統一されている。しかも、Ben GoldbergのコントラアルトクラリネットやBrandon Rossのソプラノギターなど、ひと味違う楽器の編成が、繊細にして新鮮なアンサンブルや、特異なコントラストを生み出している。

My Music by Myra Melford


◆Jacket◆
 
◆Track listing◆

01.   Through the Same Gate
02. Moon Bird
03. Night
04. The Whole Tree Gone
05. A Generation Comes and Another Goes
06. I See a Horizon
07. On the Lip of Insanity
08. Knocking From the Inside

◆Personnel◆

Myra Melford - piano; Cuong Vu - trumpet; Ben Goldberg - clarinet and contra-alto clarinet; Brandon Ross - guitar and soprano guitar; Stomu Takeishi - acoustic bass guitar; Matt Wilson - drums


(Firehouse 12 )

 明らかにこのアルバムには前作とは異なるヴィジョンがある。その変化は、2枚のアルバムのあいだに、Melfordが繰り広げたコラボレーションと無関係ではないだろう。

 たとえば、ヴァイオリニストのTanya Kalmanovitchと彼女が即興で作り上げた『Heart Mountain』(2007)とか、サックス奏者Marty Ehrlichとのデュオ『Spark!』(2007)とか、藤井郷子とのデュオ『Under The Water』(2009)とか。あるいは、フルーティスト/コンポーザーのNicole Mitchell率いるBlack Earth Ensembleに関わったことも大きいかもしれない。

 こうしたユニークなコラボレーションとの繋がりはいろいろ指摘できるが、特に影響が大きいのがEhrlichとの活動だ。ふたりは2000年代に入った頃からコラボレーションを続けていて、『Spark!』と『The Whole Tree Gone』では、複数の曲がダブっている。

 その曲のなかでも、<A Generation Comes and a Generation Goes>(『The Whole Tree Gone』では<A Generation Comes and Another Goes>)と<I See a Horizon>には注目すべきだろう。メルフォードは、イラクの詩人Al-Jawahiriの詩にインスパイアされてこれらの曲を作った。

 この詩人が1940年代のイラクで戦争についての詩を詠んだことが彼女を刺激したらしい。おそらくは、9・11以後やイラク戦争を意識していたのだろう。ということは、メルフォードは、戦争というものを踏まえたうえで、“The Whole Tree Gone”というメッセージを導き出したことになる。

 そういう想像をめぐらしながらこのアルバムを聴くと、自然と結びついたアコースティックなサウンド、その表情豊かなアンサンブルが心に染みてくる。


(upload:2012/01/17)
 
 
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