ビホールド・ザ・スピリット / ウィリアム・タイラー
Behold the Spirit / William Tyler (2010)


 
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(初出:)

 

 

ナッシュヴィル出身のギタリスト/コンポーザー
アメリカン・プリミティヴィズムの新星のソロデビュー作

 

 ナッシュヴィルを拠点にし、ラムチョップ(Lambchop)やシルヴァー・ジューズ(Silver Jews)で活動し、ヒス・ゴールデン・メッセンジャー、ローラ・キャントレル、チャーリー・ルーヴィン、ボニー“プリンス”ビリーらと共演してきたギタリスト/コンポーザー、ウィリアム・タイラー

 『ビホールド・ザ・スピリット/Behold the Spirit』は、タイラーが自身の名前を冠したソロアルバムのデビュー作になります。魂や霊性といった、見えないものを見ることを意味するタイトルに、彼の独自の視点や創造性が集約されているように思います。

 子供の頃のタイラーは本の虫で、特に歴史にのめり込んでいたようです。それから映画にも。同年代の人とはまったく話が合わず、部屋でひとりで過ごせるものを求め、最終的にギターにたどり着きました。(↓下につづく)

 タイラーの音楽には、彼の独特の世界観や感性が反映されています。歴史に対する彼の関心は、失われた文化や失われた世界に対する関心といえます。

 ここで、このソロデビュー作以前に、タイラーがペーパー・ハッツ名義でリリースした(2015年にタイラー名義で再リリースされている)『デザレット・キャニオン』を振り返っておくのも無駄ではないでしょう。

 タイトルの“デザレット”とは、モルモン教の大管長ブリガム・ヤングが考案した文字の名前であり、モルモン書からとられたこの名称はミツバチを意味しています。またこの名前は、モルモン教徒が作ろうとした州の名前でもあります。その文字は普及することがなく、州も実際に誕生することはありませんでした。それはまさに失われた文化といえます。

 そして、このソロデビュー作にも歴史に対する独自の視点が反映されています。3曲目の“Oahspe”という言葉は、モルモン書に関わる引用だと思われます。2曲目の“Missionary Ridge”は、南北戦争の戦場のことを意味しているのでしょう。

 彼が歴史を掘り下げ、異なる視点から、失われた文化や世界、霊性という見えないものを見ようとすることと、フィンガーピッキングを駆使して、ジャンルを超越したサウンドスケープを切り拓くことは、間違いなく深く結びついています。


◆Jacket◆
 
◆Track listing◆

01.   Terrace of the Leper King
02. Missionary Ridge
03. Oahspe
04. To the Finland Station
05. The Cult of the Peacock Angel
06. Tears and Saints
07. Signal Mountain
08. The Green Pastures
09. Ponotoc

◆Personnel◆

William Tyler - guitar; Joe McMahan - pedal steel guitar; Alex McManus - violin, brass, electronics, tapes; Helli Hix - violin; Tony Crow - piano; Ryan Norris - synthesizer; Scott Martin - drums, percussion, electronics

(Tompkins Square)
 

 

(upload:2016//)
 
 
《関連リンク》
William Tyler official Site
William Tyler - Merge Records
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『レイトネス・オブ・ダンサーズ』 レビュー
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