ナッシュヴィルを拠点にし、ラムチョップ(Lambchop)やシルヴァー・ジューズ(Silver Jews)で活動し、ヒス・ゴールデン・メッセンジャー 、ローラ・キャントレル、チャーリー・ルーヴィン、ボニー“プリンス”ビリーらと共演してきたギタリスト/コンポーザー、ウィリアム・タイラー 。
『ビホールド・ザ・スピリット/Behold the Spirit』は、タイラーが自身の名前を冠したソロアルバムのデビュー作になります。魂や霊性といった、見えないものを見ることを意味するタイトルに、彼の独自の視点や創造性が集約されているように思います。
子供の頃のタイラーは本の虫で、特に歴史にのめり込んでいたようです。それから映画にも。同年代の人とはまったく話が合わず、部屋でひとりで過ごせるものを求め、最終的にギターにたどり着きました。(↓下につづく)
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タイラーの音楽には、彼の独特の世界観や感性が反映されています。歴史に対する彼の関心は、失われた文化や失われた世界に対する関心といえます。
ここで、このソロデビュー作以前に、タイラーがペーパー・ハッツ名義でリリースした(2015年にタイラー名義で再リリースされている)『デザレット・キャニオン』 を振り返っておくのも無駄ではないでしょう。
タイトルの“デザレット”とは、モルモン教の大管長ブリガム・ヤングが考案した文字の名前であり、モルモン書からとられたこの名称はミツバチを意味しています。またこの名前は、モルモン教徒が作ろうとした州の名前でもあります。その文字は普及することがなく、州も実際に誕生することはありませんでした。それはまさに失われた文化といえます。
そして、このソロデビュー作にも歴史に対する独自の視点が反映されています。3曲目の“Oahspe”という言葉は、モルモン書に関わる引用だと思われます。2曲目の“Missionary Ridge”は、南北戦争の戦場のことを意味しているのでしょう。
彼が歴史を掘り下げ、異なる視点から、失われた文化や世界、霊性という見えないものを見ようとすることと、フィンガーピッキングを駆使して、ジャンルを超越したサウンドスケープを切り拓くことは、間違いなく深く結びついています。