余力為(ユー・リクウァイ)インタビュー
Interview with Lik-Wai Yu


2009年 渋谷
PLASTIC CITY プラスティック・シティ――2008年/中国=香港=ブラジル=日本/カラー/95分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:「CDジャーナル」2009年4月号)

移民の精神や魂のよりどころを探る
――『PLASTIC CITY プラスティック・シティ』(2008)

 『天上の恋歌』の監督であり、ジャ・ジャンクー作品を支える撮影監督でもあるユー・リクウァイ。ブラジルの大都市サンパウロを舞台にした新作『PLASTIC CITY プラスティック・シティ』では、裏社会に生きる中国系のユダと、彼に拾われて育てられた日系のキリンという二人の移民の絆が描き出される。

「ぼくが移民を題材にするのは、香港で生まれ育った人間だからだと思う。香港という土地は歴史をさかのぼれば、人口が千人くらいの漁村で、そこに各時代を経て移民がやって来た。だから香港の人間は根無し草という感覚を持っている。ぼくにはそれが染み付いていて、当たり前のように移民に目が行き、テーマとして追いかけてしまう。以前の作品でもこの新作でも、移民の精神や魂のよりどころがどこにあるのかを探っているんだ」

 ユー・リクウァイが撮影監督を務めたジャ・ジャンクー監督の『世界』では、世界の名所旧跡のイミテーションが並ぶ“世界公園”やコピー商品など、偽物と本物の関係を通して現代中国が描き出されていた。『PLASTIC CITY』のキリンは、偽物=コピー商品を売って本物の現金を稼ぐことをモットーにしている。この映画の舞台はブラジルだが、中国社会も意識されているように思える。

「その通りだと思う。ただ、ぼくのとらえ方としては中国だけでは括れなくて、アジアといった方がしっくりくる。撮影したのはブラジルだけど、今のアジアがどういう状況にあるのかが、鏡のように映し出されている。ブラジルと同じように、アジアも世界経済のなかで重要な役割を果たすようになった。しかし急速な発展で、精神的な支柱、人によっては伝統という言葉で表現するものを失いかけているとも思う」

 この映画は、1984年のアマゾンのジャングルから始まり、最後に再びジャングルへと戻っていく。そんな時間の流れや世界観には、東洋的なものを感じるのだが。

「始まりを1984年に設定したのは、軍事政権の末期だったから。ユダが最も混乱した状況から台頭してきたことを強調したかったんだ。確かに、ぼくの作品には東洋思想があると思う。ジャングルには、生命の営みや大地の力を感じる。ユダとキリンはサンパウロを離れ、ジャングルで再会する。そこには自分の精神性をもう一度探し求めるというイメージがある。ラストは曖昧な表現になっているけど、父子関係に精神性が表れていると思う」

 さらに、ユー・リクウァイの作品では、音楽も重要な位置を占めている。

「ぼくは脚本を書くときにいつも音楽を聴いている。今回いちばんよく聴いていたのは、メキシコ人のフェルナンド・コロナだ。すごく新しいものを感じる。彼の音楽を聴くとすぐに映像が浮かんできて、人物の動きとか映画のリズムまで想像することができる。それから古いサンバにも影響された。表面的にはリラックスしているようで、根底に悲しみがあるように感じるんだ」


◆プロフィール◆
余力為(ユー・リクウァイ)
1966年8月12日、香港に生まれる。
ベルギー国立高等舞台芸術学院(INSAS)で映画撮影を専攻。94年に卒業後、香港に戻って撮影助手を務めるかたわら、インディペンデントで映画製作を始める。96年、田舎から北京に出てきた3人の若い中国人女性の生活を捉えた中篇ドキュメンタリー『ネオンの女神たち』で撮影・監督デビューを果たす。そのカメラセンスと演出が評価され、97年山形国際ドキュメンタリー映画祭でシネマ・ダイスキ賞を受賞。この撮影を通して出会った女性たちが語る人生観、実際のエピソードを下敷きにして誕生したのが、長編デビュー作となる『天上の恋歌』である。本作では新人でありながら、99年カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品されるという快挙を成し遂げた。2003年には長編第2作となる『オール・トゥモローズ・パーティーズ』を手がけ、続く04年には韓国・全州(チョンジュ)映画祭のオムニバス作品『三人三色』にポン・ジュノ監督と石井聰亙監督とともに参加し、中篇「夜迷宮」を出品した。
撮影監督としてもその才能は高い評価を得ており、97年にジャ・ジャンクー監督の『一瞬の夢』に撮影監督として参加して以降、『プラットホーム』、「In Public」、『青の稲妻』、『世界』、「東」、『長江哀歌』、そして『四川のうた』と、ジャ・ジャンクー作品になくてはならない存在となっている。その他の撮影監督作品に、99年ベルリン映画祭コンペティション部門に出品されたアン・ホイ監督の「千言萬語」、撮影第2班として参加したウォン・カーウァイ監督の『花様年華』などがある。中国、香港だけでなく、アジア各国をまたにかけた活躍を続ける中、本作でブラジルにも進出、監督としても撮影監督としても世界的に大きな注目を集めている。
(『PLASTIC CITY プラスティック・シティ』プレスより引用)

 


(upload:2009/07/08)
 
 
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