『天上の恋歌』の監督であり、ジャ・ジャンクー作品を支える撮影監督でもあるユー・リクウァイ。ブラジルの大都市サンパウロを舞台にした新作『PLASTIC CITY プラスティック・シティ』では、裏社会に生きる中国系のユダと、彼に拾われて育てられた日系のキリンという二人の移民の絆が描き出される。
「ぼくが移民を題材にするのは、香港で生まれ育った人間だからだと思う。香港という土地は歴史をさかのぼれば、人口が千人くらいの漁村で、そこに各時代を経て移民がやって来た。だから香港の人間は根無し草という感覚を持っている。ぼくにはそれが染み付いていて、当たり前のように移民に目が行き、テーマとして追いかけてしまう。以前の作品でもこの新作でも、移民の精神や魂のよりどころがどこにあるのかを探っているんだ」
ユー・リクウァイが撮影監督を務めたジャ・ジャンクー監督の『世界』では、世界の名所旧跡のイミテーションが並ぶ“世界公園”やコピー商品など、偽物と本物の関係を通して現代中国が描き出されていた。『PLASTIC CITY』のキリンは、偽物=コピー商品を売って本物の現金を稼ぐことをモットーにしている。この映画の舞台はブラジルだが、中国社会も意識されているように思える。
「その通りだと思う。ただ、ぼくのとらえ方としては中国だけでは括れなくて、アジアといった方がしっくりくる。撮影したのはブラジルだけど、今のアジアがどういう状況にあるのかが、鏡のように映し出されている。ブラジルと同じように、アジアも世界経済のなかで重要な役割を果たすようになった。しかし急速な発展で、精神的な支柱、人によっては伝統という言葉で表現するものを失いかけているとも思う」
この映画は、1984年のアマゾンのジャングルから始まり、最後に再びジャングルへと戻っていく。そんな時間の流れや世界観には、東洋的なものを感じるのだが。
「始まりを1984年に設定したのは、軍事政権の末期だったから。ユダが最も混乱した状況から台頭してきたことを強調したかったんだ。確かに、ぼくの作品には東洋思想があると思う。ジャングルには、生命の営みや大地の力を感じる。ユダとキリンはサンパウロを離れ、ジャングルで再会する。そこには自分の精神性をもう一度探し求めるというイメージがある。ラストは曖昧な表現になっているけど、父子関係に精神性が表れていると思う」
さらに、ユー・リクウァイの作品では、音楽も重要な位置を占めている。
「ぼくは脚本を書くときにいつも音楽を聴いている。今回いちばんよく聴いていたのは、メキシコ人のフェルナンド・コロナだ。すごく新しいものを感じる。彼の音楽を聴くとすぐに映像が浮かんできて、人物の動きとか映画のリズムまで想像することができる。それから古いサンバにも影響された。表面的にはリラックスしているようで、根底に悲しみがあるように感じるんだ」
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