スティーブン・チョボスキー・インタビュー
Interview with Stephen Chbosky


2013年
ウォールフラワー/The Perks of Being a Wallflower――2012年/アメリカ/カラー/103分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:「CDジャーナル」2013年)

 

 

映画でやりたかったのは、苦悩しているのが
自分だけではないと感じてもらうことだった
――『ウォールフラワー』(2012)

 

 処女作になる青春小説が社会現象になるほどのベストセラーになり、今度はそれを自ら映画化したと書けば、小説家が監督にも挑戦したような印象を与えることだろう。だが、スティーブン・チョボスキーの出発点は小説ではない。

 彼は20代で映画監督としてデビューした後で個人的な想いを詰め込んだ小説を発表し、機が熟すのを待つように長い時間をかけてそれを脚色し、映画化に漕ぎつけた。

「12歳の時に父親に自分は物書きになりたいと宣言したら、偉大な物書きは偉大な読者でもあるという言葉が返ってきた。ところが僕は全然読者をしない子供で、映画ばかり観ていたので、だったら脚本を書こうと思い、映画の道に進んだんだ。でも心のどこかにいつも小説を大切に思う気持ちがあるようで、不思議なことにこの映画を作る過程で小説への愛情を再び強く感じるようになった。今後の映像作家としての活動も、まず小説を書き、それを脚色し、自分で監督するようにしたいと思っているくらいだ」

 『ウォールフラワー』の主人公は、小説家志望の孤独な若者チャーリー。高校入学と同時にスクールカーストの最下層に追いやられた彼は、自由奔放な上級生の兄妹パトリックとサムに出会うことで変貌を遂げていく。この映画では、登場人物それぞれが抱える心の痛みが誠実かつ繊細に描き出される。彼らがそんな痛みと向き合うドラマには、私たちにセラピー的な効果を及ぼすと思えるほどの深みがある。

「それは僕にとって最大の賛辞だ。原作で、そしてそれ以上に映画でやりたかったのは、苦悩しているのが自分だけではないと感じてもらうことだった。この映画が回復に向かうための青写真のようなものになってくれればと。映画を作るときには、できる限り人物の感情のあやとか複雑さを描き出したいと思っていた。そこに痛みの描写があり、みんなが一度奈落に沈むからこそ、上がっていくことができ、最後にカタルシスを感じられるんだ」


◆プロフィール◆
スティーブン・チョボスキー
1970年、アメリカ、ペンシルべニア州生まれ。南カリフォルニア大学映画・テレビ学部脚本科卒業。初監督作『The Four Corners of Nowhere』(95)は、サンダンス映画祭でプレミア上映される。
1999年、小説「ウォールフラワー」を出版。米国内で100万部以上を売り上げ、14か国において12の言語で出版される。高校や大学でも頻繁に授業で使用され、推定読者数は500〜700万人にのぼる。また、過去10年間に5度、アメリカ図書館協会の“最も頻繁に問題視される書籍10冊”のリストに挙がっている。21世紀に禁書となった全書籍のトップ100では、15位になる。
その後、ブロードウェイの大ヒットミュージカルを映画化した『RENT/レント』(05)の脚本を手掛け、高い評価を得る。世界滅亡後を描くTVシリーズ「ジェリコ 〜閉ざされた街〜」(06〜08)では、脚本と製作総指揮を務める。このシリーズは、打ち切りに対して怒ったファンが、抗議としてTV局に4万ポンド(約1.8トン)のピーナッツを送ったことでTV史上に名を残す。
(『ウォールフラワー』プレスより引用)
 

 


 さらに、ドラマと音楽の密接な結びつきも見逃せない。主人公たちはザ・スミスに夢中になっている。チャーリーはサムに気持ちを伝えるために、ニック・ドレイクやシャッグスの曲の入ったカセットをプレゼントする。真夜中のドライブでトンネルの先に世界が開ける象徴的な場面を際立たせるのも音楽だ。

「僕はいつも音楽からインスピレーションを得ている。原作を書いた時には、ラリー・クラーク監督の『KIDS』のサントラに収められたある曲を繰り返し聴きながら9割近くを書き上げた。トンネルの場面を書いた時には、スターズの<ユア・エクス・ラバー・イズ・デッド>を、チャーリーとサムがキスする場面では、レジーナ・スペクターの<サムソン>を聴いていた。映画のサントラは、それぞれの場面に合った独特のフィーリングを感じさせる楽曲を選んだ。チャーリーとサムがキスする場面では、親密な空気を醸し出すためにマイケル・ブルックとあのピアノの曲を作った。最後はカタルシスを感じてほしかったので、デヴィッド・ボウイの<ヒーローズ>にしたんだ」


(upload:2014/04/23)
 
 
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