闇の列車、光の旅 (レビュー01)
Sin Nombre


2009年/アメリカ=メキシコ/カラー/スペイン語/96分/シネマスコープ/ドルビーデジタル
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(初出:「CDジャーナル」2010年6月号、EAST×WEST12)

ホモソーシャルな連帯関係と家族の絆をめぐって

 日系アメリカ人キャリー・ジョージ・フクナガ監督の長編デビュー作『闇の列車、光の旅』では、中南米で勢力を広げるギャングと危険を覚悟でアメリカを目指す移民の世界がリアルに描き出される。筆者はこの映画を観ながら、4月に公開されたジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督の『ジョニー・マッド・ドック』のことを思い出していた。2本の映画は共通するテーマを扱っている。

 リベリアを舞台にした『ジョニー・マッド・ドッグ』では、少年兵の部隊を率いる15歳のジョニーと家族を守ろうとする13歳の少女ラオコレの視点から内戦の混乱が描き出される。ジョニーは暴虐の限りを尽くして前進していくが、ラオコレと遭遇した瞬間にその攻撃性が治まる。

 少年兵は、物心がつく前に殺人等の儀式で集団に引きずり込まれ、ホモソーシャルな連帯関係に呪縛され、暴力に駆り立てられる。少女と遭遇したジョニーは一瞬だけ人間性を取り戻し、彼女を見逃す。

 『闇の列車、光の旅』の物語もそんなホモソーシャルな連帯関係が鍵を握る。ギャングのメンバー、カスペルは、12歳のスマイリーを仲間に引き込み、少年は殺人の儀式によって一線を越える。かつて同じ経験をしたカスペル自身は恋に目覚め、忠誠が揺らぎつつあったが、その恋人は支部のリーダーに殺されてしまう。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   キャリー・ジョージ・フクナガ
Cary Joji Fukunaga
撮影 アドリアーノ・ゴールドマン
Adriano Goldman
編集 ルイス・カルバリャール、クレイグ・マッケイ
Luis Carballar, Craig McKay
音楽 マーセロ・ザーヴォス
Marcelo Zarvos
プロデューサー エイミー・カウフマン
Amy Kaufman
製作総指揮 ガエル・ガルシア・ベルナルディエゴ・ルナ、パブロ・クルス
Gael Garcia Bernal, Diego Luna, Pablo Cruz
 
◆キャスト◆
 
サイラ   パウリーナ・カイタン
Paulina Caitan
ガスペル/ウィリー エドガー・フロレス
Edgar Flores
スマイリー クリスティアン・フェレール
Kristyan Ferrer
リマルゴ テノック・ウエルタ・メヒア
Tenoch Huerta Mejia
マルタ ディアナ・ガルシア
Diana Garcia
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(配給:日活)

 そして、もはや服従の道しか残されていないカスペルの運命を変えるのが、貨物列車の屋根に乗って北を目指す移民の少女サイラだ。カスペルは、強盗の最中に彼女に暴行しようとしたリーダーを殺害し、強大なギャングの標的となる。

 この映画では、ホモソーシャルな連帯関係と家族の絆が巧妙に対置されている。ギャングになることで同居する祖母との絆を断ったスマイリーは、カスペルを仕留めようとすることで自分を呪縛していく。「許せ、母さん」というタトゥーを入れているカスペルは、自分を呪縛してきた連帯関係の虚しさを噛みしめながら、サイラを国境の向こうに送り届けようとする。

 離れて暮らしてきた父親に乞われ、彼がアメリカに築いた家庭の一員となることに抵抗を覚えているサイラは、カスペルと行動をともにすることで変化する。家族を引き裂く連帯関係の呪縛を乗り越え、家族の絆に目覚めていくドラマには深い感動がある。


(upload:2010/08/09)
 
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