[ストーリー] 1682年フランス。田園地方の庭園で、ひとりで生きるサビーヌの元に、予想もしない仕事のオファーが舞い込んだ。フランス国王ルイ14世が計画する新たなる王宮の庭園建設に白羽の矢が立ったのだ。
国王の庭園建築家アンドレ・ル・ノートルとの面接を受けるが、伝統と秩序を重んじる彼と対立してしまう。しかし、自由な精神で庭と向き合う彼女の言葉が忘れられず、ル・ノートルは宮殿における中心的な庭園造りをサビーヌに任せることにする。大きな可能性を秘める彼女に、ル・ノートルは少しずつ心魅かれていく――。[プレスより]
『ウィンター・ゲスト』(97)で監督としても評価されたアラン・リックマンが、監督・共同脚本・出演を兼ねた作品です。ヒロイン、サビーヌをケイト・ウィンスレット、ル・ノートルを『君と歩く世界』(12)のマティアス・スーナールツが演じています。
[以下、レビューのテキストになります]
ヴェルサイユ宮殿の造営という大事業を背景にした『ヴェルサイユの宮廷庭師』では、歴史上の人物たちと架空の女性造園家サビーヌ・ド・バラが巧みに結びつけられ、独自の世界が切り拓かれていく。宮廷付き造園家ル・ノートルから<舞踏の間>の造園を任されたサビーヌは、伝統に縛られない感性によって国王ルイ14世やル・ノートルを魅了していく。
では、そんな感性の源はどこにあるのか。この映画では、主人公たちがそれぞれに自然と関わりを持っているが、自然に対する認識や自然との距離はまったく異なる。ルイ14世は、自然を切り拓き、思いのままに変えてみせることで威光を示そうとする。国王が納得する庭園を造る使命を背負うル・ノートルは、人間が考える揺るぎない秩序に自然を取り込もうとする。
これに対してサビーヌは、田園のなかで土にまみれて生きている。この映画の前半では、ル・ノートルとの面会を終えて戻った彼女が、複数の幹が奇妙な曲線を描いて四方に広がる老木に腰を下ろす姿が印象に残る。その光景は、彼女が自然の側に立ち、独自の感性を培っていることを示唆している。
しかし、この3者をめぐるドラマから浮かび上がるのは、人間が生み出す権力と自然とのコントラストだけではない。サビーヌが自然に惹かれるのは、彼女が重い過去を背負っていることと無関係ではない。たとえば、彼女が作業を終え、爪の間に入った土を取り除いている時には、どこからともなく犬と戯れる子供の声が聞こえてくる。 |