海を飛ぶ夢
Mar Adentro / The Sea Inside  Mar adentro
(2004) on IMDb


2004年/スペイン/カラー/125分/シネマスコープ/ドルビーDTS・SDDS
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(初出:「Movie Gong」2005年、若干の加筆)

 

 

死を望む男と3人の女性の関係を通して
生と死の位相や意味を見つめなおす

 

 アレハンドロ・アメナーバル監督の作品では常に、絶対的なものであるはずの生と死の境界が揺らいでいく。

 スリラー『テシス・次に私が殺される』では、本物の殺人を記録したスナッフ・フィルムをめぐって生と死の境界が曖昧になっていく。最終的にSF的な展開を見せる『オープン・ユア・アイズ』では、主人公の前に死んだはずの人間が現われるかと思えば、存在するはずの人間の痕跡が消失してしまう。出征した夫の帰りを待つ妻と子供たちを描く『アザーズ』では、孤島の屋敷という限定された空間のなかで、生と死の境界が静かに揺らぎ、意外な結末に至る。

 そして、絶対的なものの揺らぎからは、現実さえも捩じ曲げていく人間の欲望や執着、逃避、不安、罪悪感などが浮かび上がってくる。

 そんなアメナーバルは、この新作でスタイルをがらりと変え、深い洞察に満ちた人間ドラマを通して、生と死の境界の揺らぎを描き出す。この映画は、実在の人物ラモン・サンペドロの手記がもとになっている。25歳のときに海の事故で首から下が不随になり、ベッドでの生活を余儀なくされた彼は、それから26年後に死を決意し、尊厳死の権利を求めて戦い、そして命を絶った。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/編集/製作総指揮   アレハンドロ・アメナーバル
Alejandro Amenabar
脚本 マテオ・ヒル
Mateo Gil
撮影 ハビエル・アギーレサロベ
Javier Aguirresarobe
音楽 アレハンドロ・アメナーバル
Alejandro Amenabar
 
◆キャスト◆
 
ラモン・サンペドロ   ハビエル・バルデム
Javier Bardem
フリア ベレン・ルエダ
Belen Rueda
ロサ ロラ・ドゥエニャス
Lola Duenas
ジェネ クララ・セグラ
Clara Segura
マヌエラ マベル・リベラ
Mabel Rivera
ホセ セルソ・ブガーリョ
Celso Bugallo
ハビ タマル・ノバス
Tamar Novas
ホアキン ホアン・ダルマウ
Joan Dalmau
マルク フランセスク・ガリード
Francesc Garrido
-
(配給:東宝東和)

 この映画では、死を決意したラモンがその望みを叶えるまでのドラマが、彼と3人の女性たちとの関係を中心に描かれる。興味深いのは、3人の女性がそれぞれにラモンの生と死を映し出す鏡になっていることだ。女性の立場が違えば、彼との間に生まれる関係も違ったものになり、生と死の位相も変わってくるのだ。

 ラモンの法廷闘争を支援する女性弁護士フリアは、自らも不治の病に倒れ、いずれ植物状態になるという運命ゆえに彼と世界を共有していく。

 テレビで彼を知った労働者ロサは、彼の決意を翻させることで、自らの不遇の人生に救いを見出そうとする。だが、彼と接するうちに深い愛に目覚め、死=逃避という考え方に対する修正を迫られる。

 ラモンの面倒を見つづける義姉マヌエラは、母親のような愛情によって彼のすべてを受け入れ、教義に縛られた神父の批判に晒されながらも、彼を支えていく。

 死とは単に息絶えることではない。アメナーバルは、死をめぐる多様な側面を実に鮮やかに描き出している。私たちは、生と死の境界でそれぞれに煩悶し、愛や絆を確認していくこの男女の関係を通して、生と死の位相や意味を見つめなおすことになる。


(upload:2011/01/18)
 
 
《関連リンク》
アレハンドロ・アメナーバル監督論
――個人の感覚や認識と現実世界との隔たり
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アレハンドロ・アメナーバル・インタビュー 『オープン・ユア・アイズ』 ■
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