この映画では、死を決意したラモンがその望みを叶えるまでのドラマが、彼と3人の女性たちとの関係を中心に描かれる。興味深いのは、3人の女性がそれぞれにラモンの生と死を映し出す鏡になっていることだ。女性の立場が違えば、彼との間に生まれる関係も違ったものになり、生と死の位相も変わってくるのだ。
ラモンの法廷闘争を支援する女性弁護士フリアは、自らも不治の病に倒れ、いずれ植物状態になるという運命ゆえに彼と世界を共有していく。
テレビで彼を知った労働者ロサは、彼の決意を翻させることで、自らの不遇の人生に救いを見出そうとする。だが、彼と接するうちに深い愛に目覚め、死=逃避という考え方に対する修正を迫られる。
ラモンの面倒を見つづける義姉マヌエラは、母親のような愛情によって彼のすべてを受け入れ、教義に縛られた神父の批判に晒されながらも、彼を支えていく。
死とは単に息絶えることではない。アメナーバルは、死をめぐる多様な側面を実に鮮やかに描き出している。私たちは、生と死の境界でそれぞれに煩悶し、愛や絆を確認していくこの男女の関係を通して、生と死の位相や意味を見つめなおすことになる。 |