[ストーリー] 美しいトゥヤーは、中国内モンゴルの西北部の草原で暮らしている。ダイナマイト事故で下半身が麻痺してしまった夫バータル。幼い子供たち。朝から夜までわずかな畑を耕し、羊を放牧していた。かつては青々としていた草原も、今では砂漠に侵食され、水も十キロ以上離れた井戸まで汲みにいかなくてはならない。力強く凛として働くトゥヤー。しかし、寝たきりの夫を抱える厳しい生活と、重労働は、美しい彼女の体を蝕んでいく――。バータルの孤独。自殺未遂。死んで行く羊たち。トゥヤーは、家族への愛から、ひとつの決断をする。生きていくために。夫への愛のために――。[プレスより]
ワン・チュアンアン監督の母親は、内モンゴル自治区の、この映画のロケ地の近くで生まれたという。その地域は砂漠化が進み、中国政府は環境を保護するために、牧畜民を強制的に移住させる“生態移民”という政策を実施している。ワン監督は、そんな現実を踏まえ、牧畜民の生活を映像に残そうとした。
だが、この劇映画は、彼らの生活をとらえるだけではなく、時代の流れに逆行する物語を紡ぎ出していく。牧畜民たちは映画の撮影後に移住させられたが、たくましいヒロインとその家族は、苦難の果てに土地にとどまる道を選択する。それは、映画のなかだけのささやかな希望を意味しているわけではない。
この映画で印象に残るのは井戸掘りだ。ヒロインの夫は、井戸を掘っていて事故に遭い、下半身不随になった。最後の求婚者となる隣人の男も、その気持ちを表すために井戸を掘り出す。井戸掘りは、土地にとどまること、文化を守ることを意味する。
そして、ワン監督もまた、ただ目の前の現実を見るのではなく、民俗学者のように、土地と文化を掘り下げている。ヒロインの結婚をめぐる物語が、人々のなかに生きつづけていく民話のようにも感じられるのは、決して偶然ではない。 |