[Story] 1945年4月、敗色濃厚のドイツでは戦いに疲弊した兵士たちによる軍機違反が相次いでいた。部隊を脱走して無人地帯をさまよう兵士ヘロルトは、道ばたに打ち捨てられた軍用車両の中で軍服を発見。それを身にまとって大尉に成りすました彼は、ヒトラー総統の命令と称する架空の任務をでっち上げるなど言葉巧みな嘘を重ね、道中出会った兵士たちを次々と服従させていく。かくして”ヘロルト親衛隊”のリーダーとなった若き脱走兵は、強大な権力の快楽に酔いしれるかのように傲慢な振る舞いをエスカレートさせ、ついにはおぞましい大量殺人へと暴走し始める...。(プレス参照)
[以下、本作のレビューになります]
第二次世界大戦後、ドイツ人は、ヒトラーという悪魔と、悪魔に利用された人の好いドイツ人の間に一線を引くことで過去を清算しようとした。しかし、それは事実ではなかった。
ロバート・ジェラテリーの『ヒトラーを支持したドイツ国民』では、豊富な資料をもとにヒトラーと国民の関係が明らかにされている。ヒトラーは1933年に、国際連盟脱退の賛意を問う国民投票と選挙を行い、その両方で圧倒的な勝利を収め、権力を掌握した。ジェラテリーは、他の政党が非合法化されていたことや反対を示す無効票も踏まえたうえで、以下のように書いている。
「それでも大多数がナチに投票したことに変わりはない。それも人びとは新聞で読んだり口伝えで聞いて、国家秘密警察や強制収容所や政府先導のユダヤ人迫害などを知ってのうえだった。この国民投票と選挙は、いみじくも『ヒトラーの正真正銘の勝利』といわれ、『巧みな操作と自由の欠如を考慮しても』、この瞬間に『ドイツ国民の圧倒的大多数がヒトラーを支持した』という事実は争えない」
そんな過去を見つめ直すことを怠ればどうなるか。戦後の西ドイツでは経済復興が優先され、脱ナチ化の取り組みは失敗し、連合国によって排斥された人々が復権するなど再ナチ化が進行した。
過去の克服は容易ではない。だからこそドイツ映画には、これまでにない視点で過去を検証し、現代に警鐘を鳴らす作品が登場してくる。
実話に基づくロベルト・シュヴェンケ監督の『ちいさな独裁者』は、まさにそんな作品である。筆者が本作を観て真っ先に思い浮かべたのは、3年前に公開されたデヴィッド・ヴェンド監督の『帰ってきたヒトラー』のことだ。この2作品には共通点があり、比較してみると本作に描き出される世界がより興味深いものになるはずだ。
『帰ってきたヒトラー』では、死んだはずのヒトラーが2014年のベルリンで目覚める。人々は彼をコスプレしたモノマネ芸人だと思う。そして、リストラされたTVディレクターやTV局の局長、局長の椅子を狙う副局長らが、彼を利用して出世を目論む。 |