『サムシング・ワイルド』では、副社長への昇進が決まっているビジネスエリート、チャーリーが、ニューヨークのレストランで食い逃げをはかったことをきっかけに、その一部始終を見ていた奇抜なファッションのルルという女に振り回されていく。彼女は、クルマで会社まで送ると言いながら、モーテルに乗りつけ、いきなり彼にのしかかろうとする。ところが彼女には、刑務所を仮釈放になったばかりの凶暴な元夫がいて、チャーリーは大げさにいえば、これからどう生きていくのかの選択を迫られることになる。
監督のデミはそんなドラマを通して、一見豊かに見える郊外の生活に埋没して、実は居場所を失っているにもかかわらず、自分を偽りながら生きていたチャーリーを、抜き差しならない状況に追い込み、覚醒へと導いていく。
本作に登場するルー、マーゴ、キャロラインという3人の女性たちも、それぞれに居場所を失いながら、そのことから目を背けている。ルーは、自分のライフスタイルを変えるつもりはないと言い張るものの、望んで車上生活をしているわけではない。人との関わりを恐れているためにそうするしかないのだ。マーゴは、結婚のエキスパートとして本を書き、自立しているように見えるが、実は出ていった夫が置いたままにしている絵画や家具などに囲まれて暮らし、離婚を望む夫との関係をきっぱり割り切ることができない。キャロラインは出産してから夫に愛されなくなり、不倫に走ろうとしている。
本作では、そんな3人が奇妙な成り行きで結びつき、赤ん坊をめぐるトラブルを通して変貌を遂げていく。キャロラインは、ルーのことを客室係と勘違いして子守りを頼むが、ルーの姿はどう見ても勘違いのしようがない。彼女は心のどこかで赤ん坊がいなくなればと思っていて、ルーを部屋に招き入れた。だが翌朝、ベッドで目覚めて、赤ん坊がいないことに気づき、別の意味でも目覚める。
マーゴと赤ん坊とともに彼女のところに転がり込んだルーについては、絵をめぐるエピソードが痛快だ。マーゴが買い物から戻ってくると、壁にかけられた彼女の夫の物である絵をルーが勝手にはずし、上から色を塗って楽しむ準備をしている。マーゴは動転し、激怒してルーを追い出そうとするが、興奮のあまり誤って塗料を絵の上にこぼしてしまう。焦った彼女は必死で塗料を拭おうとするが、手遅れだとわかると、逆に自ら塗りたくりだす。その瞬間に彼女は呪縛を解かれ、変貌を遂げていく。
では、ルーの場合はどうか。本作は、ルーが酒場で男たちと賭けをして、酒を横取りしてニコと車で逃げだす場面から始まる。彼女は、何事もいざとなったら逃げればいいと考えているが、ラストではそうしない。そして最後に、何かから解放されたかのように穏やかな笑みを浮かべる。 |