コーダ あいのうた
Coda


2021年/アメリカ/英語/カラー/112分/ヴィスタ/5.1chデジタル
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(初出:)

 

 

『タルーラ 〜彼女たちの事情〜』のシアン・ヘダー監督
フランス映画『エール!』がよりリアルに洗練されて

 

[Introduction] エリオット・ペイジアリソン・ジャネイが共演したデビュー作『タルーラ 〜彼女たちの事情〜』で高く評価された女性監督シアン・ヘダーが、2014年製作のフランス映画『エール!』をリメイク。サンダンス映画祭で史上最多4冠に輝いた話題作。
主人公のルビーには、大ヒットTVシリーズ「ロック&キー」で一躍人気のエミリア・ジョーンズ。共演は『シング・ストリート 未来へのうた』の主役でも話題のフェルディア・ウォルシュ=ピーロ。ルビーの家族を演じるのは、オスカー女優のマーリー・マトリンを始め全員が実際に聞こえない俳優たち。

[Story] 豊かな自然に恵まれた海の町で暮らす高校生のルビーは、両親と兄の4人家族の中で一人だけ耳が聞こえる。陽気で優しい家族のために、ルビーは幼い頃から“通訳”となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、秘かに憧れるクラスメイトのマイルズと同じ合唱クラブを選択するルビー。すると、顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、都会の名門音楽大学の受験を強く勧める。だが、ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられず、家業の方が大事だと大反対。悩んだルビーは夢よりも家族の助けを続けることを選ぶと決めるが、思いがけない方法で娘の才能に気づいた父は、意外な決意をし...。

[以下、本作の短いレビューになります]

 エリック・ラルディゴ監督のフランス映画『エール!』(14)のリメイク。オリジナルの主人公一家は農村で酪農を営んでいたが、リメイクでは、マサチューセッツ州の海辺の町が舞台になり、ロッシ一家は漁業を営んでいる。物語の大きな流れは変わらないが、設定やキャラクターに様々な変更が加えられ、よりリアルで洗練された作品になっている。

 オリジナルでは、ヒロインの父親が、現村長が進める工場の建設計画に反対し、農地や森林を守るために村長選に立候補するが、争点となる問題よりも村長選をユーモラスに描くことに力点が置かれていた。

 本作では、家業である漁業と家族がもっと密接に関わっている。ヒロイン、ルビーの父親は、漁師のコミュニティのなかで引け目を感じているところがあり、それが仲卸業者との取引でも不利に働いている。だから子供たちは、捕った魚を業者を通さずに販売することを考えるようになる。また、無線に応答できる健常者が同乗しなければ、免許停止になるなど、ルビーの存在がより重要になっている。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   シアン・ヘダー
Sian Heder
オリジナル脚本 ヴィクトリア・ベドス、スタニスラス・カレ・ド・マルベルグほか
Victoria Bedos, Stanislas Carre de Malberg, etc
撮影 パウラ・ウイドブロ
Paula Huidobro
編集 ジェロード・ブリッソン
Geraud Brisson
音楽 マリウス・デ・ブリーズ
Marius De Vries
 
◆キャスト◆
 
ルビー・ロッシ   エミリア・ジョーンズ
Emilia Jones
フランク・ロッシ トロイ・コッツァー
Troy Kotsur
ジャッキー・ロッシ マーリー・マトリン
Marlee Matlin
レオ・ロッシ ダニエル・デュラント
Daniel Durant
マイルズ フェルディア・ウォルシュ=ピーロ
Ferdia Walsh-Peelo
ベルナルド エウヘニオ・デルベス
Eugenio Derbez
ガーティ エイミー・フォーサイス
Amy Forsyth
-
(配給:GAGA)
 

 オリジナルでは、主人公の男女がヒロインの家で歌の練習をするとき、彼女に初潮がきてひと騒動起こるが、本作では、ルビーとマイルズが練習しているときに、帰宅した両親が、ふたりがいることに気づかずにセックスをはじめる。つまり、本作では、そのエピソードが「聞こえないこと」と結びついている。

 また本作では、オリジナルに登場するヒロインの弟が、レオという兄に変更されている。そのレオは、家族がルビーに頼るのではなく、自分が家族を支えていきたいと思っている。だから、オリジナルで、ヒロインの弟と彼女の親友が急接近する設定も引き継がれてはいるが、展開はまったく違う。オリジナルでは、ふたりが手話を通して急接近するものの、弟がコンドームのせいでアレルギー反応を起こしてしまうという、なんともクセのあるエピソードに仕立てられていたのに対し、本作では、レオが彼を差別する人間に立ち向かい、それを見ていたヒロインの親友が惹かれていくという、やはり「聞こえないこと」と結びついたエピソードになっている。

 要するに、オリジナルはストーリーによってメリハリをつけているが、本作では家族それぞれのキャラクターが、「聞こえないこと」と絡めてしっかりと掘り下げられ、ストーリーに頼っていない。シアン・ヘダーは、デビュー作『タルーラ 〜彼女たちの事情〜』でも、それぞれに居場所を失っている3人の女性たちに対する洞察が際立っていたが、本作でもその洞察力が遺憾なく発揮されている。


(upload:2022/01/30)
 
 
《関連リンク》
シアン・ヘダー 『タルーラ 〜彼女たちの事情〜』 レビュー ■
ミロスラヴ・スラボシュピツキー 『ザ・トライブ』 レビュー ■
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