監督・脚本のザル・バトマングリと製作・脚本・主演を兼ねるブリット・マーリング。いまハリウッドで注目される俊英コンビが作り上げた先の読めないサスペンスには、現代社会に対する鋭い視点が埋め込まれている。
物語は元FBIエージェントのジェーンが、クライアントの企業をテロ活動から守る調査会社ヒラー・ブルードに採用されるところから始まる。彼女が潜入調査を命じられるのは、環境汚染や健康被害をもたらす大企業に「目には目を」のスローガンで報復を行なう正体不明の環境テロリスト集団“イースト”だ。
恋人にはごく普通の海外出張を装い、行く当てのない放浪者サラに変貌を遂げた彼女は、集団への潜入に成功する。そして、最初は彼らに反感を持っているが、金のために倫理を捨てる大企業の不正と、被害者の実情を知るうちに彼らの信念に共感を抱き始める。
この映画は、環境のテロリストと大企業の対立を描こうとしているわけではない。ポイントになるのは、調査会社の存在だ。ヒロインはFBI捜査官のような意識でテロ活動を察知し、危険を冒して上司に報告するが、会社は標的となった企業がクライアントでなければ黙殺する。そして実際にダメージを被った企業はやがてこの会社のクライアントになる。
テロ集団を検挙するだけならFBIに通報すればすむことだが、この会社は彼らを泳がせ、テロ計画の詳細な情報を収集しようとする。テロの脅威が大きく、具体的で、身近であるほど会社の存在価値は高くなり、業績を伸ばすことができる。
調査会社はテロ活動に依存することによって大きな力を得る。と同時に、会社の駒となる調査員たちは精神的に追い詰められる。テロ活動の調査を通して大企業の不正にも直面せざるをえないからだ。この映画ではそんな不条理な状況が、予想もつかない結末を招き寄せることになる。
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