[ストーリー] “敵”の名簿を愉しげにチェックするスターリン。名前の載った者は、問答無用で“粛清”される恐怖のリストだ。時は1953年、モスクワ。スターリンと彼の秘密警察がこの国を20年にわたって支配していた。
下品なジョークを飛ばし合いながら、スターリンは側近たちと夕食のテーブルを囲む。道化役の中央委員会第一書記のフルシチョフ(スティーヴ・ブシェミ)の小話に大笑いする秘密警察警備隊長のベリヤ(サイモン・ラッセル・ビール)。スターリンの腹心のマレンコフ(ジェフリー・タンバー)は空気が読めないタイプで、すぐに場をシラケさせてしまう。明け方近くまで続いた宴をお開きにし、自室でクラシックをかけるスターリン。無理を言って録音させたレコードに、ピアニストのマリヤ(オルガ・キュリレンコ)からの「その死を祈り、神の赦しを願う、暴君よ」と書かれた手紙が入っていた。それを読んでも余裕で笑っていたスターリンは次の瞬間、顔をゆがめて倒れ込む。
お茶を運んできたメイドが、意識不明のスターリンを発見し、すぐに側近たちが呼ばれる。驚きながらも「代理は私が務める」と、すかさず宣言するマレンコフ。側近たちで医者を呼ぼうと協議するが、有能な者はすべてスターリンの毒殺を企てた罪で獄中か、死刑に処されていた。仕方なく集めたヤブ医者たちが、駆け付けたスターリンの娘スヴェトラーナ(アンドレア・ライズブロー)に、スターリンは脳出血で回復は難しいと診断を下す。その後、スターリンはほんの数分間だけ意識を取り戻すが、後継者を指名することなく、間もなく息を引き取る。この混乱に乗じて、側近たちは最高権力の座を狙い、互いを出し抜く卑劣な駆け引きを始める。表向きは厳粛な国葬の準備を進めながら、マレンコフ、フルシチョフ、ベリヤに加え、各大臣、ソビエト軍の最高司令官ジューコフまでもが参戦。進行する陰謀と罠――果たして、絶対権力のイスに座るのは誰?!。[プレスより]
[以下、本作のレビューです]
独裁者スターリンの死とその後継者争いをブラック・コメディに仕立てあげた本作の冒頭には、「スターリンの秘密警察NKVDは20年にわたり恐怖で支配していた。“敵”としてリストに載った者は粛清される」という字幕が挿入される。
本作では、スターリンの権力や支配をどうとらえるのかがポイントになる。スターリンの死後、側近たちは改革や自由化を口にするようになり、最初に実権を握ったマレンコフと彼を操るベリヤは、実際にスターリンの粛清リストを破棄し、囚人を釈放する。もしスターリンの権力を揺るぎないものにしていたのが、監視や粛清の恐怖だけだったら、いくら人気取りのためとはいえそんな方針転換はできないだろう。ということは、そこに恐怖による支配だけではない、しっかりとした土台があることになる。
では、その土台とはなにか。それを理解するヒントを与えてくれるのが、社会学者マックス・ウェーバーが「支配」の本質に迫った『権力と支配』だ。本書では、鉄血宰相と呼ばれた19世紀の政治家ビスマルクと官僚制の関係が以下のように説明されている。 |