春夏秋冬そして春
Spring, Summer, Fall, Winter, and Spring  Bom yeoreum gaeul gyeoul geurigo bom
(2003) on IMDb


2003年/韓国=ドイツ/カラー/103分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:「Cut」2004年10月号、映画の境界線38より抜粋、若干の加筆)

 

 

外部に向かうことなく内部を変え
完結した神話的な世界に至る

 

 韓国の鬼才キム・ギドク監督の新作『春夏秋冬そして春』では、深山の湖に浮かぶ小さな寺を舞台に、住職と暮らすひとりの人間の人生が、“四季”を通して描きだされる。

 春、魚や蛙に小石を結びつける無邪気な悪戯をした幼子は、生き物の命を奪うことで業を背負う。夏、17歳になった彼は、養生のために寺に寝泊りすることになった少女と恋に落ち、寺を去った彼女の後を追うように出奔する。

 秋、自分を裏切った妻を殺害してしまった男は、十数年ぶりに寺の門を叩き、そこで自殺を図ろうとする。冬、刑務所を出所した彼は、荒れ果てた寺を訪れ、往生した住職の遺骨を拾い、無の境地へと近づいていく。

 この映画でまず驚かされるのは、湖に浮かぶ釣り人用の小屋や妻を殺害して自殺を図る男、水と欲望の結びつき、人と魚をめぐる見立てといった、『魚と寝る女』のモチーフが、様々なかたちで使われているにもかかわらず、まったく異なる世界が切り拓かれていくことだ。

 『魚と寝る女』や『悪い男』では、男女が身分や立場の違いから生じる軋轢を乗り越えようとすることから、現実のなかに異空間が切り拓かれる。彼らは、ふたりだけの世界を生きるために、限定された空間から外部へとさまよいだす。

 ところがこの映画では、呪縛からの解放につながるような外部を示唆する空間を切り拓こうとはしない。四季を象徴的に描くことによって、そこにある空間を変えていくのだ。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   キム・ギドク
Kim Ki-duk
撮影 ペク・ドンヒョン
Baek Dong-hyeon
編集 キム・ギドク
Kim Ki-duk
音楽 パク・チウン
Park Ji-woong
 
◆キャスト◆
 
老僧   オ・ヨンス
Oh Yeong-su
子供 キム・ジョンホ
Kim Jong-ho
少年 ソ・ジェギュン
Seo Jae-kyeong
青年 キム・ヨンミン
Kim Young-min
少女 ハ・ヨジン
Ha Yeo-jin
中年 キム・ギドク
Kim Ki-duk
-
(配給:エスピーオー)
 

 国立公園のなかにセットを作ったこの映画では、その始まりにおいては、自然はありのままのものに見える。しかし、湖の岸辺に立つ壁のない門と寺の繋がりや、水辺で戯れる少年や若者と少女のドラマを通して、自然は映画の世界に完全に取り込まれる。

 春のせせらぎは少年の業を、夏に増水して門を浸す湖は、抑えることができない若者の欲望を現す。冬に雪と氷に覆われた寺に戻ってきた男は、凍結した滝を使って仏像を彫るが、その滝が単なる水や氷ではないことはいうまでもないだろう。

 そしてこの映画で最も印象深いのが、その冬のドラマのなかで、自分の身体に石臼を括りつけた男が、仏像を抱えて山に登り、湖と寺を見下ろす頂きにそれを置く場面だ。キム・ギドクは、仏教における結界を表現するだけではなく、自らこの男を演じることによって映画としても結界を設定し、外部に向かうことなく完結した、神話的ともいえる独自の世界を切り拓いている。


(upload:2013/05/12)
 
 
《関連リンク》
『魚と寝る女』 レビュー ■
『サマリア』 レビュー ■
『うつせみ』 レビュー ■
『嘆きのピエタ』 レビュー ■
キム・ギドク監督論 ■

 
 
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