※レビューをお読みになる前に、筆者ブログ(Into the Wild 2.0)の『ジャンゴ 繋がれざる者』試写室日記と今週末公開オススメ映画リスト2013/02/28をお読みになると、レビューの内容がよりわかりやすくなるかと思います。
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クエンティン・タランティーノの新作『ジャンゴ 繋がれざる者』は、アメリカ南部を舞台にした西部劇だ。
南北戦争が始まる二年前の一八五八年、鎖に繋がれた黒人奴隷のジャンゴは、賞金稼ぎのドイツ人シュルツと出会い、自由を得て賞金稼ぎの道を歩み出す。ジャンゴには引き離された妻を取り戻すという目的があり、腕を上げた彼は妻の居場所を突き止め、シュルツとともに残忍な領主が権力を振るう農場に乗り込んでいく。
この映画は、マカロニ・ウエスタンの代表作『続・荒野の用心棒』へのオマージュになっている。だが、それ以上に重要なのが、奴隷制を題材にした70年代の映画『マンディンゴ』からインスピレーションを得ていることだ。
ちなみにタランティーノは『マンディンゴ』をブラックスプロイテーション・フィルムの傑作として賞賛している。この二作品の世界を比較してみると、ポストモンダンともいえるタランティーノの感性が明確になる。
『マンディンゴ』では、南部特有の強固な階級社会のなかで本物の紳士階級にはなれない農場主と優れた血統を持つ奴隷の間に生まれる複雑な感情が、破滅を招き寄せる。タランティーノは文化的な背景には関心がないので、イメージを借用してマカロニ・ウエスタンに仕立てているが、興味深いのはお約束の派手な銃撃戦に至る過程だ。
ジャンゴの目的はあくまで妻を取り戻すことで、彼女を所有する領主との間に深い因縁があるわけではない。だから交渉はまとまりかけるが、非常に些細なことがきっかけで農場が修羅場と化していく。積年の恨みなどではなく、「キレる」ことが発端となって壮絶な暴力に発展するところに、今という時代を見ることができる。 |