[ストーリー] 物語は郊外の自宅で、激しく殴打された遺体で発見されたジョン・スキナーの葬儀の場面から始まる。この事件では、同居していた彼の娘カトリーナに疑いの目が向けられているが、物語はそこから過去へとさかのぼり、悲劇に至る過程が明らかにされていく。
19歳のカトリーナは、ベイリーという娘の未婚の母親で、近隣ではその奔放な性の遍歴で有名人になっている。彼女にはダニーという兄がいるが、妹を屈辱した人間を殺害して刑務所に入っている。そんな兄に対して普通ではない愛情を抱くカトリーナは、彼に腕利きの弁護士をつけるために父親と交渉するが、父親はそれを拒むだけでなく、地元の警官アンドレッティと結託して、孫を施設に預けようとする。それに激昂したカトリーナは、恋人のラスティや兄の友だちで知的障害のあるケニーを操って、父親に制裁を加えようとする。
ポール・ゴールドマン監督の『サバーバン・メイヘム(原題)/Suburban Mayhem』(06)は、オーストラリアにおける郊外生活を過激なユーモアで風刺するブラック・コメディだ。舞台はゴールデン・グローブという郊外住宅地で、コミックやミュージック・ビデオなどを意識したスタイルで、セックスや暴力が描き出される。
カトリーナを演じるニュージーランド出身の女優エミリー・バークレイの強烈なパフォーマンスは、オリヴァー・ストーンの『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のジュリエット・ルイスを連想させる。彼女の兄ダニーが、日本刀で武装してコンビニに押し入り、店員を殺してしまうあたりは、やはりタランティーノに影響されているのだろう。
しかし、作品全体のアプローチとして最も近いのは、ガス・ヴァン・サントの『誘う女』(95)だろう。『誘う女』のヒロインは「TVに映らなければ生きている意味がない」という単純で確固とした人生観の持ち主で、地元の高校生たちを誘惑して操り、彼女が野心を叶えるうえで障害となる夫を排除しようとする。映画は、夫が殺害され、ヒロインに疑惑の目が向けられるところから始まり、彼女の独白や関係者の証言を交えて、事件が再構築されていく。この『サバーバン・メイヘム(原題)』も、そんな構成をほぼ踏襲している。 |