サバーバン・メイヘム(原題)
Suburban Mayhem  Suburban Mayhem
(2006) on IMDb


2006年/オーストラリア/カラー/95分/
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(初出:)

 

 

郊外生活に揺さぶりをかける
オーストラリア版『誘う女』

 

 [ストーリー] 物語は郊外の自宅で、激しく殴打された遺体で発見されたジョン・スキナーの葬儀の場面から始まる。この事件では、同居していた彼の娘カトリーナに疑いの目が向けられているが、物語はそこから過去へとさかのぼり、悲劇に至る過程が明らかにされていく。

 19歳のカトリーナは、ベイリーという娘の未婚の母親で、近隣ではその奔放な性の遍歴で有名人になっている。彼女にはダニーという兄がいるが、妹を屈辱した人間を殺害して刑務所に入っている。そんな兄に対して普通ではない愛情を抱くカトリーナは、彼に腕利きの弁護士をつけるために父親と交渉するが、父親はそれを拒むだけでなく、地元の警官アンドレッティと結託して、孫を施設に預けようとする。それに激昂したカトリーナは、恋人のラスティや兄の友だちで知的障害のあるケニーを操って、父親に制裁を加えようとする。

 ポール・ゴールドマン監督の『サバーバン・メイヘム(原題)/Suburban Mayhem』(06)は、オーストラリアにおける郊外生活を過激なユーモアで風刺するブラック・コメディだ。舞台はゴールデン・グローブという郊外住宅地で、コミックやミュージック・ビデオなどを意識したスタイルで、セックスや暴力が描き出される。

 カトリーナを演じるニュージーランド出身の女優エミリー・バークレイの強烈なパフォーマンスは、オリヴァー・ストーンの『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のジュリエット・ルイスを連想させる。彼女の兄ダニーが、日本刀で武装してコンビニに押し入り、店員を殺してしまうあたりは、やはりタランティーノに影響されているのだろう。

 しかし、作品全体のアプローチとして最も近いのは、ガス・ヴァン・サント『誘う女』(95)だろう。『誘う女』のヒロインは「TVに映らなければ生きている意味がない」という単純で確固とした人生観の持ち主で、地元の高校生たちを誘惑して操り、彼女が野心を叶えるうえで障害となる夫を排除しようとする。映画は、夫が殺害され、ヒロインに疑惑の目が向けられるところから始まり、彼女の独白や関係者の証言を交えて、事件が再構築されていく。この『サバーバン・メイヘム(原題)』も、そんな構成をほぼ踏襲している。


◆スタッフ◆
 
監督   ポール・ゴールドマン
Paul Goldman
脚本 アリス・ベル
Alice Bell
撮影 ロバート・ハンフリーズ
Robert Humphreys
編集 スティーヴン・エヴァンス
Stephen Evans
音楽 ミック・ハーヴェイ
Mick Harvey
 
◆キャスト◆
 
カトリーナ・スキナー   エミリー・バークレイ
Emily Berclay
ダニー ローレンス・ブルース
Laurence Breuls
ラスティ マイケル・ドーマン
Michael Dorman
ダイアン ジュヌヴィエーヴ・レモン
Genevieve Lemon
ジョン・スキナー ロバート・モーガン
Robert Morgan
リリヤ ミア・ワシコウスカ
Mia Wasikowska
アンドレッティ スティーヴ・バストーニ
Steve Bastoni
クリスティン・アンドレッティ スーザン・プライアー
Susan Prior
-
(配給:)
 

 筆者は、「映画に見るオーストラリアの女性問題――レイプ・カルチャーと揺れるフェミニズム」で、根強い父権制の伝統とその影響について書いたが、この映画もそうしたテーマと無関係ではない。カトリーナをモンスターにするのは、周囲の男たちや社会であり、彼女の存在は鏡にもなっている。

 この映画は、ミア・ワシコウスカのスクリーンデビュー作でもあり、彼女はカトリーナに振り回され、愛犬を殺されてしまうネイリストを演じている。


(upload:2015/01/12)
 
 
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