サンシャイン・クリーニング
Sunshine Cleaning  Sunshine Cleaning
(2008) on IMDb


2009年/アメリカ/カラー/92分/ヴィスタ/ドルビーデジタルSRD
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(初出:web-magazine「e-days」Into the Wild2009年5月20日、加筆)

 

 

負け組のレッテルを拭い去り、過去と向き合う姉妹

 

 『サンシャイン・クリーニング』は、2年前に公開された快作『リトル・ミス・サンシャイン』のプロデュースチームが手がけた新作だ。その中身はオリジナル・ストーリーであり、監督も脚本家も前作とは違うが、2本の映画には共通点がある。

 タイトルに“サンシャイン”という言葉が使われている。主人公の一家が暮らしているのは、どちらもニューメキシコ州アルバカーキ。そして、勝ち組と負け組という図式にとらわれた人物が登場し、壊れかけた家族の奮闘がユーモアを交えて生き生きと描き出される。しかしこの映画は決して二番煎じではない。前作以上にドラマやキャラクターに奥行きがある。

 『リトル・ミス・サンシャイン』には、キャラクターを印象づける巧みな話術があった。たとえば、ゲイの伯父さんは、プルースト研究の第一人者を自認している。おそらく彼は若い頃にゲイであることに悩み苦しみ、プルーストに共感し、傾倒していったのだろう。一方、一家の長男は、無言の誓いを立てている。おそらく彼は、通俗的な自己啓発や成功哲学を振りかざすダメな父親に反発して、ニーチェの超人思想に傾倒していったのだろう。

 この映画は、導入部だけでこちらにそんな想像をさせる。しかし、ドラマのなかでそれ以上にキャラクターに踏み込むことはない。カリフォルニアに向かう旅とクライマックスのコンテストを通して、一家の面々が変化していくのはわかるが、彼らの過去はそれぞれの内面で清算される。もちろんそういう表現も有効だが、筆者はもう少し踏み込んでもよかったと思う。

 『サンシャイン・クリーニング』では、ローズとノラという姉妹の現在を描くだけではなく、過去に踏み込んでいく。しかも、かなり意外なかたちで。

 実際にニューメキシコ州のアルバカーキで撮影されたこの映画には、地方の生活や空気がリアルにとらえられている。そこでは未来を切り開くための選択肢が限られている。30代半ばのシングルマザーであるローズは、ハウスクリーニングの仕事をしている。彼女が生活に余裕のある人々の家を掃除すれば、狭い世界だけに、成功を収めた学生時代の女友だちと再会してしまうこともある。そんな落差に加えて、ローズがハイスクール時代にチアリーダーとして羨望の的となり、フットボールの花形選手と付き合っていたとなれば、どうしても勝ち組と負け組という立場の違いを意識せざるをえなくなる。


◆スタッフ◆
 
監督   クリスティン・ジェフズ
Christine Jeffs
脚本 ミーガン・ホリー
Megan Holly
撮影 ジョン・トゥーン
John Toon
編集 ヘザー・パーソンズ
Heather Persons
 
◆キャスト◆
 
ローズ・ローコウスキ   エイミー・アダムス
Amy Adams
ノラ・ローコウスキ エミリー・ブラント
Emily Blunt
ジョー・ローコウスキ アラン・アーキン
Alan Arkin
オスカー・ローコウスキ ジェイソン・スペヴァック
Jason Spevack
マック スティーヴ・ザーン
Steve Zahn
リン メアリー・リン・ライスカブ
Mary Lynn Rajskub
ウィンストン クリフトン・コリンズJr.
Clifton Collins Jr.
カール ケヴィン・チャップマン
Kevin Chapman
-
(配給:ファントム・フィルム )
 


 不動産業で身を立てたいローズは、生活を立て直すために、なにをやっても失敗ばかりの不器用な妹ノラを誘い、いい金になるという事件現場の清掃の仕事を始める。ひと口に事件現場といっても様々な状況があるが、この映画ではそれが最初から巧妙に限定されている。映画の導入部に、銃砲店を訪れた男が、銃を選ぶふりをして自殺するというエピソードが盛り込まれている。つまり、ローズとノラは事件現場で、負け犬とみなされるような人々の人生の末路や遺族の哀しみを目の当たりにすることになる。

 そんな姉妹は、仕事を通して金を稼ぐだけではなく、変貌を遂げていく。事件現場の清掃は、姉妹の現在と過去を映し出す鏡となり、彼女たちはふたつの意味で変貌を遂げる。まず彼女たちは、現場をきれいにするだけではなく、死者や遺族の人生から負け犬のレッテルを拭い去っていく。なぜなら彼らを負け犬とみなすことは、自殺した彼女たちの母親にも同じレッテルを貼ることになるからだ。

 しかしそれと同時に、ふたりは異なる目的で仕事に関わっていく。彼女たちの脳裏に焼きついている母親の死の記憶は同じではない。ローズがまだ幼いノラにショックを与えないために、目隠しをしたからだ。彼女たちの関係はいまもその瞬間に縛られつづけている。だから、鏡に映し出される現在と過去の繋がりも違ったものになる。そしてもし仕事がそのまま軌道に乗っていたら、過去の呪縛を解くことはできなかっただろう。

 ふたりの関係が変わったことは、彼女たちがずっと探し続けてきたものを発見したときに明らかになる。そのとき彼女たちは、同じ目線で愛する母親と向き合っているからだ。


(upload:2009/07/19)
 
 
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