[ストーリー] 主人公は、テキサス州に住む6歳の少年メイソン。キャリアアップのために大学で学ぶと決めた母に従ってヒューストンに転居したカレは、そこで多感な青春期を過ごす。アラスカから戻って来た父との再会、母の再婚、義父の暴力、そして初恋。周囲の環境の変化に時には耐え、時には柔軟に対応しながら、メイソンは静かに子供時代を卒業していく。
やがて母は大学の教師となり、オースティン近郊に移った家族には母の新しい恋人が加わる。一方、ミュージシャンの夢をあきらめた父は保険会社に就職し、再婚してもうひとり子供を持った。12年の時が様々な変化を生み出す中、ビールの味もキスの味も失恋の苦い味も覚えたメイソンは、アート写真家という将来の夢をみつけ、母の元から巣立っていく。[プレスより]
リチャード・リンクレイター監督の新作『6才のボクが、大人になるまで。』は、6才の少年メイソンとその家族の変遷を、同じ主要キャストで12年間にわたって撮りつづけることによって誕生した画期的な作品だ。だが、私たちがこの映画に流れる時間に引き込まれるのは、実際に子供が成長し、両親が年を重ねていくリアリティに魅了されるからだけではない。
まず印象に残るのは、2002年夏に始まる時代の空気だ。離婚して不在だった父親がアラスカから戻り、1年半ぶりにメイソンと彼の姉と再会する場面では、イラクのファルージャで民間軍事会社の警備員たちが襲撃され、死体が橋梁から吊り下げられている映像がテレビに映し出され、父親が政権に対する怒りを露にする。
2008年の大統領選の際には、父親がオバマを応援するだけではなく、共和党副大統領候補サラ・ペイリンの娘の妊娠が発覚したことを引き合いに出して、長女に避妊の大切さを教える。このドラマには時代の空気が自然に取り込まれ、主人公たちが反応している。
さらに、リンクレイターの地元テキサスを舞台にしていることも見逃せない。テキサス=保守という印象が強いが、同じ監督の『バーニー みんなが愛した殺人者』に登場する人物が、「テキサス州は地域ごとにまったく趣が異なり、五つの州と言ってもいい」と語っていたように、決して一様ではない。
だから、メイソンの父親のようにリベラルな人間もいれば、15歳になったメイソンに聖書と散弾銃を贈る祖父母のような人間もいる。多様な価値観を持った人々が絡んでいくので、ドラマがアメリカの縮図にもなる。 |