ナイトメア・アリー
Nightmare Alley


2021年/アメリカ/英語/カラー/150分/ヴィスタサイズ
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(初出:)

 

 

ウィリアム・L・グレシャムのノワール小説、2度目の映画化
主人公スタンが背負っているもの、心の闇に対する解釈の違い

 

[Introduction] 『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞の作品賞と監督賞をW受賞したギレルモ・デル・トロ監督が、ウィリアム・リンゼイ・グレシャムが1946年に発表したノワール小説『ナイトメア・アリー 悪夢小路』を映画化。1947年にエドマンド・グールディング監督がタイロン・パワー主演で映画化した『悪魔の往く町』につづく2度目の映画化になる。野心に燃えてカーニバルの一座からトップのショーマンに上りつめるスタンを、『世界にひとつのプレイブック』、『アメリカン・スナイパー』のブラッドリー・クーパー、スタンを信じ、彼のパートナーとなって一座を飛び出す無垢なモリーを『ドラゴン・タトゥーの女』、『キャロル』ルーニー・マーラ、成功したスタンの運命を大きく変えていく心理学博士のリリス・リッターを『アビエイター』、『ブルージャスミン』ケイト・ブランシェットが演じ、他にトニ・コレットウィレム・デフォーリチャード・ジェンキンスロン・パールマンメアリー・スティーンバージェンデヴィッド・ストラザーンら豪華キャストが共演。(プレス参照)

[Story] 成功への野心に燃える青年スタンがたどり着いたのは、人間か獣か正体不明な生き物を出し物にする怪しげなカーニバルの一座。そこで読心術師ジーナのショーを手伝うことになったスタンは、彼女のパートナーのピートが、読心術のための暗号システムを記した手帳を持っているのを知る。その手帳を手に入れ、読心術を身につけた彼は、感電ショーで人気のモリーを誘い、ショービジネスの世界での成功を目指して大都会へと旅立つ。やがてスタンは人を惹きつける才能と天性のカリスマ性を武器にトップのショーマンとなり、豪華なホテルのステージで上流階級の人々から拍手喝采を浴びる日々を送る。だが、心理学博士のリリス・リッターとの出会いが、彼の運命を大きく変えていく。さらなる野望のその先に待ち受けていた、想像もつかない闇とは...?

[以下、本作の短いレビューになります]

 ウィリアム・リンゼイ・グレシャムのノワール小説『ナイトメア・アリー 悪夢小路』の2度目の映画化でまず注目したいのは、主人公スタンが背負う過去がどのように描かれているかということ。原作のスタンは、両親と非常に複雑な関係にあった。

 ちなみに、最初の映画化作品、1947年にエドマンド・グールディング監督がタイロン・パワー主演で撮った『悪魔の往く町』の場合は、スタンの過去にはまったく触れず、野心に駆り立てられる男として描かれている。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/製作   ギレルモ・デル・トロ
Guillermo del Toro
脚本 キム・モーガン
Kim Morgan
原作 ウィリアム・リンゼイ・グレシャム
William Lindsay Gresham
撮影監督 ダン・ローストセン
Dan Laustsen
編集 キャメロン・マクラクリン
Cameron McLauchlin
音楽 ネイサン・ジョンソン
Nathan Johnson
 
◆キャスト◆
 
スタントン・カーライル   ブラッドリー・クーパー
Bradley Cooper
リリス・リッター博士 ケイト・ブランシェット
Cate Blanchett
ジーナ・クランバイン トニ・コレット
Toni Collette
クレム・ホートリー ウィレム・デフォー
Willem Dafoe
エズラ・グリンドル リチャード・ジェンキンス
Richard Jenkins
モリー・ケイヒル ルーニー・マーラ
Rooney Mara
 ブルーノ ロン・パールマン
Ron Perlman
フェリシア・キンボール メアリー・スティーンバージェン
Mary Steenburgen
ピート・クランバイン デヴィッド・ストラザーン
David Strathairn
-
(配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)
 

 これに対して本作では、スタンの過去が描かれるが、原作のそれとは大きく異なる。本作では、スタンが遺体を床下に置いて、家に火を放って去っていくところから始まる。そして後半、スタンがリリス・リッター博士に出会い、彼女のカウンセリングを受けることで、その状況がより明確になるが、いずれにしてもスタンは、カーニバルの一座に加わる前にすでに一線を越えている。

 原作では、スタンの母親が浮気をしていて、スタンはその浮気相手に自分を重ねている。スタンがショービジネスに惹かれるのもその浮気相手と無関係ではない。しかし、ふたりが駆け落ちしたことで状況が一変する。母親が浮気相手に走ったのは父親のせいだと考え、父親を殺したいと思うが、一線を越えることはなく、聖書の文句ばかり引用している”クソじじい”と腐っていくしかなかった。ショービジネスの世界で成功したスタンは、帰郷して、再婚している父親と再会し、読心術師の技を使って、彼の愛犬を殺した父親をじわじわ責め立てる。

 スタンが最初から一線を越えているのか、そうではないのか。その違いは他のエピソードとの繋がりも変えてしまうように思う。たとえば、カーニバルの一座に加わったスタンは、まずジーナと親密になり、彼女のパートナーであるピートが持つ手帳に関心を持つ。そんなピートは、スタンがこっそり手渡した酒を飲んで死んでしまう。

 それが故意なのか過失なのかは曖昧にされているが、スタンがそれ以前に一線を越えていればその曖昧さはあまり生きてこないのではないか。また、原作では、スタンがリリスのカウンセリングを通して、髪をいじる癖が母親の浮気相手に由来していることなどを見ぬかれ、感情を読まれ、つけ込まれていくが、スタンが一線を越えていると、操る者と操られる者の複雑な駆け引きが単純なものになってしまうように思える。ただ本作の場合、もはや後半はリリスの独壇場になっているともいえる。

 本作の豪華なキャストは、スタンを完全に飲み込んでしまうリリスを演じるケイト・ブランシェットを筆頭に、主人公を除いてみなはまっているが、スタンのキャラクターだけがぼやけ、浮いてしまうのは、ブラッドリー・クーパーの演技のせいだけではないだろう。

《参照文献》
『ナイトメア・アリー 悪夢小路』 ウィリアム・リンゼイ・グレシャム●
矢口誠訳(扶桑社、2020年)

(upload:2022/02/28)
 
 
《関連リンク》
デヴィッド・O・ラッセル 『世界にひとつのプレイブック』 レビュー ■
ウディ・アレン 『ブルージャスミン』 レビュー ■
アンディ・ムスキエティ 『MAMA』 レビュー ■

 
 
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