[Introduction] 2015年、全米が驚愕した。アメリカ政府による検閲で多くが黒く塗りつぶされた、ある男の〈手記〉が出版されたのだ。しかも筆者のモハメドゥ・ウルド・スラヒはその時、アメリカが設置したキューバのグアンタナモ米軍基地に収容されていた。異例尽くしのこの本(『グアンタナモ収容所 地獄からの手記』)は、またたく間にアメリカで大ベストセラーを記録し、その後、世界20か国で刊行された。
どうしても、この手記を映画化したいと切望したのが、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でアカデミー賞とゴールデングローブ賞にノミネートされ、名実ともに英国俳優の頂点に躍り出たベネディクト・カンバーバッチ。自身の製作会社でプロデューサーに専念するはずが、出来上がった脚本に感銘を受けて出演も望み、遂に歴史と国家の闇を暴く問題作を完成させた。
監督は、ドキュメンタリーに定評があり『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』でアカデミー賞ドキュメンタリー長編賞を受賞し、『ラストキング・オブ・スコットランド』でも高く評価されたケヴィン・マクドナルド。(プレス参照)
[Story] 2005年、弁護士のナンシー・ホランダーはアフリカのモーリタニア出身、モハメドゥ・ウルド・スラヒの弁護を引き受ける。9.11の首謀者の1人として拘束されたが、裁判は一度も開かれていない。キューバのグアンタナモ収容所で地獄のような投獄生活を何年も送っていた。ナンシーは「不当な拘禁」だとしてアメリカ合衆国を訴える。時を同じくして、テロへの“正義の鉄槌”を望む政府から米軍に、モハメドゥを死刑判決に処せとの命が下り、スチュアート中佐が起訴を担当する。真相を明らかにして闘うべく、両サイドから綿密な調査が始まる。モハメドゥから届く手紙による“証言”の予測不能な展開に引き込まれていくナンシー。ところが、再三の開示請求でようやく政府から届いた機密書類には、百戦錬磨のナンシーさえ愕然とする供述が記されていた──。
「ニューズウィーク日本版オフィシャルサイト」の筆者コラム「映画の境界線」で本作品を取り上げています。その記事がお読みになりたい方は以下のリンクからどうぞ。
● 9.11テロ後、グアンタナモ収容所に14年拘束された|『モーリタニアン 黒塗りの記録』 |