MEMORIA メモリア
Memoria


2021年/コロンビア=タイ=イギリス=メキシコ=フランス=ドイツ=カタール/スペイン語・英語/カラー/136分/ヴィスタ
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(初出:)

 

 

アピチャッポンが初めてタイ国外(コロンビア)で制作した作品
土地、頭のなかに響く謎の音と記憶、自己と他者の境界をめぐる旅

 

[Introduction] アピチャッポン・ウィーラセタクンの監督・脚本による最新作『MEMORIA メモリア』。『ブリスフリー・ユアーズ』『トロピ カル・マラディ』、タイ国史上初のパルムドール受賞作『ブンミおじさんの森』に続き、本作でカンヌ国際映画祭4度目の受賞 (審査員賞)となった。南米コロンビアが舞台の本作は、監督が初めてタイ国外で制作した作品。ジム・ジャームッシュ、ポン・ジュノ、ルカ・グァダニーノ、ウェス・アンダーソンら名監督とのタッグでも知られるオスカー女優のティルダ・スウィントンを主演に迎え、監督自身が患った「頭内爆発音症候群」から着想を経た記憶の旅路が描かれる。 『バルバラ セーヌの黒いバラ』でセザール賞主演女優賞を受賞したジャンヌ・バリバール、コロンビアのTVシリーズなどで活躍するエルキン・ディアス、メキシコのアカデミー賞ことアリエル賞を6度受賞しているダニエル・ヒメネス・カチョらを キャストに迎えた本作は、第94回アカデミー賞国際長編映画賞コロンビア代表に選出された。(プレス参照)

[Story] 地球の核が震えるような、不穏な【音】が頭の中で轟く―。 とある明け方、その【音】に襲われて以来、ジェシカは不眠症を患うようになる。 妹を見舞った病院で知り合った考古学者アニエスを訪ね、人骨の発掘現場を訪れたジェシカは、やがて小さな村に行きつく。 川沿いで魚の鱗取りをしているエルナンという男に出会い、 彼と記憶について語り合ううちに、ジェシカは今までにない感覚に襲われる。

[以下、本作の短いレビューになります]

 本作でヒロインのジェシカは、エルナンという同じ名前を持つふたりの人物に出会う。彼らには、名前が同じという以外になにも接点がないように見える。

 ジェシカが最初に会うのは、ボゴタの音響スタジオに勤務するサウンドエンジニアのエルナン(フアン・パブロ・ウレゴ)。頭のなかに轟いた音のことを確かめたい彼女は、義弟のフアンからエルナンを紹介され、音響スタジオを訪ねる。エルナンは、ジェシカの説明を手がかりにしつつ、その音を再現していく。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   アピチャッポン・ウィーラセタクン
Apichatpong Weerasethakul
撮影 サヨムプー・ムックディプローム
Sayombhu Mukdeeprom
編集 リー・チャータメーティクン
Lee Chatametikool
音楽 セザール・ロペス
Cesar Lopez
 
◆キャスト◆
 
ジェシカ   ティルダ・スウィントン
Tilda Swinton
エルナン(川のほとりの男) エルキン・ディアス
Elkin Diaz
アニエス ジャンヌ・バリバール
Jeanne Balibar
エルナン(音響スタジオの男) フアン・パブロ・ウレゴ
Juan Pablo Urrego
フアン ダニエル・ヒメネス・カチョ
Daniel Gimenez Cacho
-
(配給:ファインフィルムズ)
 

 そして後半、人骨の発掘現場を訪れたジェシカは、小さな村にたどり着き、川辺で魚の鱗取りをしているもうひとりのエルナン(エルキン・ディアス)に出会い、彼と語り合ううちに異次元ともいえる世界に引き込まれていく。

 アピチャッポンが、ふたりのエルナンを意図的に対照的な人物として描こうとしていることは、人物と場所との関係からわかる。サウンドエンジニアのエルナンはバンドもやっていて、東京にも行きたいと語るように、ある場所に留まるのではなく、旅する人間といえる。これに対してもうひとりのエルナンは、これまで村を出たことがないと語る。その理由は記憶と関係している。彼はすべてを記憶するために、目に入るものを制限し、映画やテレビも観ない。だから村から出ることもない。

 ふたりのエルナンは、ジェシカの頭のなかに轟いたもののふたつの側面を表わしているともいえる。サウンドエンジニアのエルナンは、いわば「出力」だ。彼は仕事で音を作り、バンドで音を出し、バンドがツアーに出れば音が広がっていく。

 ただしそれは、本作が扱う音の一面でしかないだろう。ジェシカの説明を手がかりにエルナンが作る音の再現性が高められるほどに、おそらくは実際に彼女の頭のなかに轟いたものとの本質的な違いも際立っていく。彼女が追い求めているのは、音であって音ではないからだ。

 そんな彼女はもうひとりのエルナンに出会う。すべてを記憶する彼はいわば「入力」だ。彼女は、そんなエルナンに触れ、記憶を共有していくとき、音であって音ではないものの正体を幻視することになる。


(upload:2022/03/02、update:2022/03/22)
 
 
《関連リンク》
アピチャッポン・ウィーラセタクン 『光りの墓』 レビュー ■
アピチャッポン・ウィーラセタクン 『ブンミおじさんの森』 レビュー ■

 
 
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