[ストーリー] ビリー・ビーンは、ニューヨーク・メッツから1巡目指名を受けたスター候補生だった。スカウトの言葉を信じ、大学の奨学生の権利を蹴ってまでプロの道を選んだビーンだったが、短気な性格が災いし活躍することなく27歳で現役を引退。スカウトに転進し、第二の野球人生を歩み始める。
2001年、ビリーはオークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャーとなっていた。チームはポストシーズンでヤンキースに敗れ去り、オフには3人のスター選手がFAで移籍することになっていた。
ビーンは補強によってチームを立て直そうとするが、弱小球団には十分な資金がなかった。そんなある日、トレード交渉のためにインディアンズのオフィスを訪れたビーンは、イェール大学で経済学を学んだスタッフ、ピーター・ブランドに出会う。彼はコンピュータを駆使した分析から選手を評価するセイバーメトリクスを用い、他のスカウトとは異なる基準を持ち合わせていた。その理論に興味を抱いたビーンは、彼を自身の補佐として引き抜き、他球団からは評価されていない埋もれた戦力を発掘し低予算でチームを改革しようとするが――。
『マネーボール』は、『カポーティ』(05)につづくベネット・ミラーの監督作だが、作品の出発点には大きな違いがある。『カポーティ』の脚本を手がけたダン・ファターマンは、ミラーとは高校時代からの友人で、この映画では監督・脚本家としてコンビを組んだだけでなく、カポーティ役に彼らの昔からの友人であるフィリップ・シーモア・ホフマンを起用し、親密な関係を通して独自の世界を作り上げた。
これに対して、マイケル・ルイスのベストセラー『マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男』を映画化した本作は、もともとミラーの企画だったわけではない。監督に決まっていたデヴィッド・フランケルやスティーヴン・ソダーバーグが降板したため、ミラーにこの企画の話がまわってきた。彼はすでに『フォックスキャッチャー』の企画にも着手していたが、まだ軌道には乗っていなかった。そこで、自分の関心も反映して『マネーボール』を作り上げた。
だから、スポーツを題材にした映画ではあっても、フィールドの熱狂とは違うところでしっかりと見せる作品になっている。特に興味深いのは、やはりビリー・ビーンとピーター・ブランドの関係だ。前作『カポーティ』では、トルーマン・カポーティとペリー・スミスの関係が、カポーティの人生に決定的な影響を及ぼす。この映画のふたりの関係は、そこまで深くはないが、少なくともミラーの世界といえるものにはなっている。 |