マネーボール
Moneyball


2011年/アメリカ/カラー/133分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

弱小球団を常勝軍団に作り変えた男の実話
合理的な分析が生み出すヒューマンドラマ

 

[ストーリー] ビリー・ビーンは、ニューヨーク・メッツから1巡目指名を受けたスター候補生だった。スカウトの言葉を信じ、大学の奨学生の権利を蹴ってまでプロの道を選んだビーンだったが、短気な性格が災いし活躍することなく27歳で現役を引退。スカウトに転進し、第二の野球人生を歩み始める。

 2001年、ビリーはオークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャーとなっていた。チームはポストシーズンでヤンキースに敗れ去り、オフには3人のスター選手がFAで移籍することになっていた。

 ビーンは補強によってチームを立て直そうとするが、弱小球団には十分な資金がなかった。そんなある日、トレード交渉のためにインディアンズのオフィスを訪れたビーンは、イェール大学で経済学を学んだスタッフ、ピーター・ブランドに出会う。彼はコンピュータを駆使した分析から選手を評価するセイバーメトリクスを用い、他のスカウトとは異なる基準を持ち合わせていた。その理論に興味を抱いたビーンは、彼を自身の補佐として引き抜き、他球団からは評価されていない埋もれた戦力を発掘し低予算でチームを改革しようとするが――。

 『マネーボール』は、『カポーティ』(05)につづくベネット・ミラーの監督作だが、作品の出発点には大きな違いがある。『カポーティ』の脚本を手がけたダン・ファターマンは、ミラーとは高校時代からの友人で、この映画では監督・脚本家としてコンビを組んだだけでなく、カポーティ役に彼らの昔からの友人であるフィリップ・シーモア・ホフマンを起用し、親密な関係を通して独自の世界を作り上げた。

 これに対して、マイケル・ルイスのベストセラー『マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男』を映画化した本作は、もともとミラーの企画だったわけではない。監督に決まっていたデヴィッド・フランケルやスティーヴン・ソダーバーグが降板したため、ミラーにこの企画の話がまわってきた。彼はすでに『フォックスキャッチャー』の企画にも着手していたが、まだ軌道には乗っていなかった。そこで、自分の関心も反映して『マネーボール』を作り上げた。

 だから、スポーツを題材にした映画ではあっても、フィールドの熱狂とは違うところでしっかりと見せる作品になっている。特に興味深いのは、やはりビリー・ビーンとピーター・ブランドの関係だ。前作『カポーティ』では、トルーマン・カポーティとペリー・スミスの関係が、カポーティの人生に決定的な影響を及ぼす。この映画のふたりの関係は、そこまで深くはないが、少なくともミラーの世界といえるものにはなっている。


◆スタッフ◆
 
監督   ベネット・ミラー
Bennett Miller
脚本 スティーヴン・ザイリアン、アーロン・ソーキン
Steven Zaillian, Aaron Sorkin
原案 スタン・チャーヴィン
Stan Chervin
原作 マイケル・ルイス
Michael Lewis
撮影 ウォーリー・フィスター
Wally Pfister
編集 クリストファー・テレフセン
Christopher Tellefsen
音楽 マイケル・ダナ
Michael Danna
 
◆キャスト◆
 
ビリー・ビーン   ブラッド・ピット
Brad Pitt
ピーター・ブランド ジョナ・ヒル
Jonah Hill
アート・ハウ フィリップ・シーモア・ホフマン
Philip Seymour Hoffman
シャロン ロビン・ライト
Robin Wright
ケイシー・ビーン ケリス・ドーシー
Kerris Dorsey
スコット・ハッテンバーグ クリス・プラット
Chris Pratt
デヴィッド・ジャスティス スティーヴン・ビショップ
Stephen Bishop
ロン・ワシントン ブレント・ジェニングス
Brent Jennings
-
(配給:ソニー・ピクチャーズ
エンタテインメント)
 

 ビーンは過去と未来の間で身動きがとれなくなっている。かつてメッツから指名を受けた彼が大学に進んでいたら、人生は違ったものになっていたかもしれない。彼の母親は心のなかで息子の大学進学を望んでいたのだろう。また、プロ選手時代に資質を開花させる転機を見いだせなかったことも後悔につながっている。そして未来には資金難の壁が立ちはだかっている。

 そんなビーンにとって、イェール大学で経済学を学び、野球界にたどり着いて独自の理論を確立しながら、それが受け入れられているとはいえないピーター・ブランドの存在は、自分が歩んだかもしれないもうひとつの道と見ることもできる。この映画では、そんな道が、ビーンの野球観だけではなく、人生をも大きく変えていくことになる。


(upload:2015/01/04)
 
 
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