クライ・マッチョ
Cry Macho


2021年/アメリカ/英語/カラー/104分/スコープサイズ/5.1ch
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(初出:)

 

 

世代や立場が異なる人物同士のロード・ムービー
イーストウッドが積み重ねてきた旅の終着点を見る

 

[Introduction] 半世紀以上にわたり一線で活躍を続ける名優にして、『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』で監督として2度のアカデミー賞に輝いたクリント・イーストウッド。監督デビューから50年、40作目となるアニバーサリー作品『クライ・マッチョ』は、彼が監督・主演を務める新たなマスターピースだ。落ちぶれたカウボーイと少年の旅を通して語られる人生とは――。喜びや悲しみを背負い、なお人生をあゆみ続ける。生きる上で必要な「強さ」とは何かを温かく、時にユーモラスに時に切なく語りかける。40年前から検討されていた原作の映画化に、イーストウッドが満を持して向き合った本作は、まさに彼の集大成にして新境地。(プレス参照)

[Story] アメリカ、テキサス。ロデオ界のスターだったマイクは落馬事故以来、数々の試練を乗り越えながら、孤独な独り暮らしを送っていた。そんなある日、元雇い主から、別れた妻に引き取られている十代の息子ラフォをメキシコから連れ戻してくれと依頼される。犯罪スレスレの誘拐の仕事。それでも、元雇い主に恩義があるマイクは引き受けた。男遊びに夢中な母に愛想をつかし、闘鶏用のニワトリとストリートで生きていたラフォは、マイクとともにアメリカへの旅を始める。そんな彼らに迫るメキシコ警察や、ラフォの母が放った追手。先に進むべきか、留まるべきか? 今、マイクは少年とともに、人生の岐路に立たされる――。

[以下、本作のレビューになります]

 クリント・イーストウッドの新作には、落ちぶれた老カウボーイと親の愛に恵まれない少年の旅が描かれる。世代や立場がまったく違う者同士の旅は、イーストウッドに最も相応しい設定のひとつだ。その出発点はおそらく、マイケル・チミノが監督・脚本を手がけた『サンダーボルト』(74)のサンダーボルトとライトフットの旅。それから、『センチメンタル・アドベンチャー』(82)のレッド・ストーヴァルと甥のホイットの旅、『バード』(88)のチャーリー・パーカーとレッド・ロドニーのディープサウスへの旅、『パーフェクト・ワールド』(93)のブッチ・ヘインズと彼の人質になるフィリップの旅などが思い出される。

 さらにここで、ロバート・ロレンツ監督の『人生の特等席』につづく新作で、リーアム・ニーソン主演の『マークスマン』(21)に注目してみてもいいだろう。ロレンツが、イーストウッド作品の助監督やプロデューサーを務めてきた彼の弟子で、『マークスマン』に、牧場を細々と営む元海兵隊の腕利きの狙撃兵ジム・ハンソンと、身寄りのないメキシコ人の少年ミゲルの旅が描かれるとなれば、そこにはイーストウッドから引き継がれた世界が見えてくる。


◆スタッフ◆
 
監督//製作   クリント・イーストウッド
Clint Eastwood
脚本 ニック・シェンク
Nick Schenk
撮影 ベン・デイヴィス
Ben Davis
編集 ジョエル・コックス
Joel Cox
音楽 マーク・マンシーナ
Mark Mancina
 
◆キャスト◆
 
マイク・マイロ   クリント・イーストウッド
Clint Eastwood
ハワード・ポルク ドワイト・ヨーカム
Dwight Yoakam
ラフォ エドゥアルド・ミネット
Eduardo Minett
マルタ ナタリア・トラヴェン
Natalia Traven
アウレリオ オラシオ・ガルシア・ロハス
Horacio Garcia Rojas
レタ フェルナンダ・ウレホラ
Fernanda Urrejola
-
(配給:ワーナー・ブラザース映画)
 

 イーストウッドの近作では、そうした図式や設定が影をひそめていたが、本作の企画が40年前から検討されていたものだとわかると、復活してきたもの頷ける。すぐに企画が通っていれば、本作は『センチメンタル・アドベンチャー』よりも前の作品になっていたかもしれないが、その物語はいま映画化されるのに相応しい内容になっている。マイクが最後にたどり着く場所が、これまでイーストウッドが積み重ねてきた旅の終着点にも見え、感慨を覚えるからだ。

 さらに本作は、いま映画化されることで、違う意味でも魅力を放っているように思える。筆者が本作とぜひ比較してみたいのが、奇しくも日本では同じ日に公開になるトム・マッカーシー監督の『スティルウォーター』(21)だ。2作品には興味深い接点がある。

 『スティルウォーター』の主人公であるオクラホマ州スティルウォーター出身のビルは、フランスのマルセイユを訪れ、そこで服役している娘アリソンの無実を証明するために奔走するうちに、偶然の出会いから彼に協力するシングルマザーのヴィルジニーとその娘マヤと家族のような関係を築いていく。

 本作のマイクと少年ラフォは、メキシコ警察やラフォの母親が放った追手から逃げ回るうちにたまたま立ち寄った村で、酒場を営む女主人マルタに助けられる。彼女は4人の孫娘たちを抱える未亡人で、マイクは彼女たちと次第に家族のような関係を築いていく。

 ビルは娘を救うために真犯人を必死に追いかける。マイクはラフォを彼の父親のもとに送り届けなければならない。では、彼らがそれぞれに目的を果たすことと、異国の地で生まれた家族のような関係は果たして両立するのか。そこで2作品は見事に対照的な結末を迎える。

 その結末に関して頭に入れておきたいのは、トム・マッカーシーの場合は、トランプ支持層のアメリカ人を主人公に据え、彼を突き動かす感情を掘り下げていることだ。一方、本作では”マッチョ”がキーワードになっていることに注目すべきだろう。それらを踏まえておくと、『スティルウォーター』とは対照的な本作の結末が別の意味で興味深く思えてくるのではないだろうか。

 

(upload:2022/01/01)
 
 
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トム・マッカーシー 『スティルウォーター』 レビュー ■
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