黒い司法 0%からの奇跡
Just Mercy


2019年/アメリカ/英語/カラー/137分/ヴィスタ
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(初出:『黒い司法 0%からの奇跡』劇場用パンフレット)

 

 

デスティン・ダニエル・クレットンから広がる人脈の輪、
描き出す家族の深い絆

 

[Story] 黒人差別が根強い1980年代アラバマ州。若き弁護士ブライアン・スティーブンソン(マイケル・B・ジョーダン)は、黒人の死刑囚ウォルター・マクミリアン(ジェイミー・フォックス)と出会う。ウォルターは、18歳の少女を惨殺した罪で死刑を宣告されていた。彼の潔白を示す優位な証拠があり、彼に不利な証言は、嘘をつく動機がある犯罪者からのたったひとつの証言しかないという事実にもかかわらずである。そんなウォルターの無罪を勝ち取るべく、ブライアンは立ち上がる。

しかし、仕組まれた証言、白人の陪審員たち、証人や弁護士たちへの脅迫など、数々の差別と不正がブライアンの前に立ちはだかる。それでもブライアンは、同じ志をもつエバ・アンスリー(ブリー・ラーソン)とともに、「真の正義」を求め過酷な状況のなか闘い続ける。

果たしてブライアンは、最後の希望となりウォルターを救うことができるのか――? 可能性0%からの奇跡の逆転に挑む!

 [以下、『黒い司法 0%からの奇跡』のレビューになります]

 デスティン・ダニエル・クレットン監督の新作『黒い司法 0%からの奇跡』では、原作であるブライアン・スティーブンソンの回顧録を尊重しつつ、独自の世界が切り拓かれている。

 そのキャストからは、クレットンから広がる人脈の輪が浮かび上がる。ブリー・ラーソンについては、あまり説明の必要もないだろう。クレットン作品には、『ショート・ターム』と『ガラスの城の約束』と本作で3作連続の出演になる。彼らは揺るぎない信頼関係で結ばれている。

 マイケル・B・ジョーダンは、ライアン・クーグラー監督と組んだ『フルートベール駅で』、『クリード チャンプを継ぐ男』、『ブラックパンサー』で快進撃を続けてきた。そのクーグラーとクレットンには、チームを組んでTVシリーズの企画を立てるほどの親交がある。

 クレットンはジョーダンとの縁について、複数のインタビューでこんな逸話を紹介している。彼が別件でクーグラーと電話で話しているときに、本作の原作本の話題になり、主人公にはジョーダンしかいないと思っていることを伝えると、クーグラーが一緒にいたジョーダンに代わり、いきなり彼に話を持ちかけることになった。また、クーグラーがクレットンを本作の製作総指揮のニーヤ・クイケンドールに紹介したという話もある。エンドクレジットのSpecial Thanksにはクーグラーの名前も見られるので、彼が何らかのサポートをしたことは間違いないだろう。

 オファーを受けたジョーダンは、製作にも名乗りを上げ、ジェイミー・フォックスとのパイプ役も果たした。ジョーダンとフォックスの出会いは、ジョーダンの子役時代にさかのぼり、後に彼らはバスケットボールを通して親交を深め、俳優として共演経験はないものの師弟のような間柄になっていた。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   デスティン・ダニエル・クレットン
Destin Daniel Cretton
脚本 アンドリュー・ランハム
Andrew Lanham
撮影 ブレット・ポウラク
Brett Pawlak
編集 ナット・サンダース
Nat Sanders
音楽 ジョエル・P・ウェスト
Joel P West
 
◆キャスト◆
 
ブライアン・スティーブンソン   マイケル・B・ジョーダン
Michael B. Jordan
ウォルター・マクミリアン ジェイミー・フォックス
Jamie Foxx
エバ・アンスリー ブリー・ラーソン
Brie Larson
ハーバート・リチャードソン ロブ・モーガン
Rob Morgan
ラルフ・マイヤーズ ティム・ブレイク・ネルソン
Tim Blake Nelson
トミー・チャップマン レイフ・スポール
Rafe Spall
-
(配給:ワーナー・ブラザース映画)
 

 そしてもうひとつ、本作で重要な役割を果たしているのが、原作に対するクレットンのアプローチだ。本作では、原作の内容に頼るだけでなく、ブライアンや関係者にインタビューを行い、人物や背景などにかなりの肉付けが施されている。

 もちろん原作に忠実に映画化したとしても、人種差別や冤罪の実態に迫る見応えのあるドラマになっていただろう。刑務所の死刑囚棟に押し込まれ、完全に希望を失っているウォルターと閉鎖的な南部の世界に飛び込み、圧倒的に不利な立場で不平等を正そうとするブライアン。彼らのなかには、怒りや絶望、恐れ、哀しみが渦巻いているが、安易に感情をむき出しにすることもできない。フォックスとジョーダンは、抑制された迫真の演技でそんな息苦しさや複雑な心理を表現している。

 しかし本作は、彼らを取り巻く人物たちにも視野を広げ、様々な感情が絡み合っていくヒューマンドラマになっている。クレットンは、デビュー作『ヒップスター』から一貫して家族というテーマを掘り下げてきた。それが文字通りの家族だけではなく、状況によって形作られる家族になることもある。そんなクレットンの関心は、本作にも反映されている。しかも、かなり細部にまで。

 筆者が注目したいのは、重要な証言をしたマイヤーズが、それを覆すまでの過程だ。そこには家族に関わる独自の視点が加味されている。ブライアンが最初にマイヤーズと面会したとき、彼は事件から話を逸らすために自分の子供のことを語りだすが、話の流れでウォルターにも3人の子供がいることを知る。その事実が彼の心理にどんな影響を及ぼしていたのかは、やがて法廷で明らかになる。彼は証言を覆した後で、「彼を早く子供たちの所へ帰してやってくれ」と語るからだ。

 それは些細なエピソードのように見えるが、主人公たちのドラマとも絡み合っている。ウォルターは、ブライアンが彼の家族に会いに行ったことを知って態度を軟化させる。彼は独房のなかで写真を見ながら家族を想うことで、前に進む意思を強くする。

 クレットンは、家族のエピソードをさり気なくちりばめ、登場人物の誰もが親であり子であることを示唆する。本作の冒頭には、南部に旅立つブライアンと母親の会話が挿入される。ブライアンとともにEJIを立ち上げるエバは、原作では実務能力に長けた女性という印象を受けるが、本作では、ブレない強い母親でもある。自分の家族への脅迫があっても、彼女は「息子に思われたくない。ママはビビッて正しい道をあきらめたと」と語る。

 さらに、主人公たちと彼らを取り巻く人物たちの関係も家族を想起させる。ウォルターとブライアンは、歪んだ司法や根深い偏見に前進を阻まれ、打ちのめされる。だが、死刑囚棟では、ウォルターとハーブ、アンソニーの3人がお互いを支えあい、苦悩するブライアンにはエバが寄り添う。

 そんな彼らのドラマにはある共通点がある。そこには、物理的あるいは精神的に彼らがとても正面から向き合って言葉を交わすことができないほど深刻な状況がある。だから彼らは、横に並んで座るか、目を背けるようにして、相手に想いを伝え、支えようとする。そうしたやりとりからは、まさしく状況が形作る家族の深い絆が浮かび上がってくる。

 クレットンは、原作に隠れた家族の関係を掘り下げることで、異なる視点から差別が生む冤罪の重さを描き出している。

《参照/引用文献》
『黒い司法 黒人死刑大国アメリカの冤罪と闘う』ブライアン・スティーヴンソン●
宮崎真紀訳(亜紀書房、2016年)
‘Just Mercy’: Michael B. Jordan Recruited Mentor Jamie Foxx
| IndieWire.com by Anne Thompson●

(Jan 3, 2020)

(upload:2020/06/17)
 
 
《関連リンク》
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