クリード 炎の宿敵
CREED II


2018年/アメリカ/カラー/130分/スコープサイズ
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(初出:『クリード 炎の宿敵』劇場用パンフレット)

 

 

クーグラー、ジョーダン、ケイプル・Jr.――。
ミレニアル世代が創造する新たな神話

 

 『フルートベール駅で』から『クリード チャンプを継ぐ男』を経て『ブラックパンサー』へと、快進撃を続けてきた監督ライアン・クーグラーと俳優マイケル・B・ジョーダンのコンビに、新たな才能が加わることになった。『クリード 炎の宿敵』の監督に起用されたスティーブン・ケイプル・Jr.だ。彼を推薦したのはクーグラー。ふたりは、南カリフォルニア大学映画芸術学部で出会い、ケイプルが先輩クーグラーからアドバイスをもらうなどして、親交を結んでいた。

 ケイプルは、2016年にインディペンデント映画『The Land』で長編デビューを果たした新鋭だ。この映画の舞台は、彼が生まれ育ったオハイオ州クリーブランドの荒廃したインナーシティ。そんな出口のない世界で、スケートボードに熱中する4人の若者の体験がリアルに描き出される。

 貧しい彼らは、チームワークで通りかかった車の進路を妨害し、運転手の気をそらして気絶させ、奪った車を売って生活の足しにしている。プロのスケーターになるのが夢だが、金もなくスポンサーもいないので大会に出られない。そんなある日、彼らが奪った車のトランクから大量のドラッグが出てくる。彼らはそれを売りさばいて夢を叶えようとするが、やがて取り返しのつかない悲劇が起こる。

 カリフォルニア州オークランド出身のクーグラーは、オスカー・グラント射殺事件を題材にしたデビュー作『フルートベール駅で』で、同じ年に生まれ、同じ土地で育ったグラントの最後の一日を通して、身近な現実を見つめ、そこから『クリード チャンプを継ぐ男』へと飛躍を遂げた。ケイプルはその軌跡をたどり、三つの才能がトライアングルを形作ろうとしている。

 クーグラー、ジョーダン、ケイプルには、互いに引き寄せあうような接点がある。彼らは、それぞれ1986年、1987年、1988年生まれで、ミレニアル世代に属している。インナーシティの厳しい環境で育ち、生活も貧しかったが、両親の支えや人材育成プログラムのおかげで、犯罪に手を染めることなくキャリアを築き、そうした環境や現実に対する強い問題意識も持っている。


◆スタッフ◆
 
監督   スティーブン・ケイプル・Jr.
Steven Caple Jr.
ストーリー チェオ・ホダリ・コーカー
Cheo Hodari Coker
撮影 クレイマー・モーゲンソー
Kramer Morgenthau
編集 デイナ・E・グローバーマン
Dana E. Glauberman
音楽 ルドウィグ・ゴランソン
Ludwig Goransson
 
◆キャスト◆
 
アドニス   マイケル・B・ジョーダン
Michael B. Jordan
ロッキー・バルボア シルベスター・スタローン
Sylvester Stallone
ビアンカ テッサ・トンプソン
Tessa Thompson
イワン・ドラゴ ドルフ・ラングレン
Dolph Lundgren
ヴィクター・ドラゴ フロリアン・"ビッグ・ナスティ"・ムンテアヌ
Florian "Big Nasty" Munteanu
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(配給:ワーナー・ブラザース映画)
 

 さらに、彼らとスポーツの関係には、前の世代との違いを垣間見ることができる。ジョーダンは学生時代にバスケットボールをやっていた。クーグラーが、「ロッキー」シリーズの熱烈なファンだった父親の影響を受けていることはよく知られているが、親子はフットボールでも深く結びついていた。クーグラーはフットボールの奨学金で進学したが、プロを目指すことを望んでいた父親の意に反して、映画の道を選択した。

 ケイプルの場合は、父親がドラッグに溺れて家族に負担を強いたため、親子の間に溝があったが、それでもバスケットボールで結びついていた。ケイプルは本気でNBAを目指していたが、経済的な事情もあり、映画の道に進んだ。そんな彼の個人的な体験は、『The Land』に色濃く投影されている。彼はバスケットボールをスケートボードに置き換え、スポーツを通して4人の若者の絆を描いている。さらに、自分の家族の異なる側面が、4人の異なる家族すべての土台になっている。このスポーツと家族に対する洞察は、アポロとアドニス、ドラゴとヴィクター、ロッキーとロバートという親子の関係が重要な位置を占める本作にも引き継がれている。

 本作でタッグを組んだジョーダンとケイプルには、その関係を物語る興味深いエピソードがある。ふたりは、本作の撮影中に素晴らしい映画やテレビドラマなりそうな黒人の歴史的人物についてよく語り合っていたという。そこで挙がった人物のひとりが、14世紀のマリ帝国で栄華を誇った王マンサ・ムーサだった。彼らは、アメリカの黒人という枠組みに縛られることなく、新たな黒人像を生み出そうとしている。

 さらにジョーダンは、自分たちが夢を持つために、黒人の神話を創造することの重要性を強調している。そんな彼が『ブラックパンサー』で演じたキルモンガーは、オークランドのインナーシティの現実的な世界とアフリカの神話的かつ未来的な世界を結びつける役割を果たしているといえる。

 そして、「クリード」の物語にも神話的な要素が盛り込まれている。神話学者ジョーゼフ・キャンベルが『千の顔をもつ英雄』で書いているように、神話的冒険は、「分離」、「イニシエーション」、「帰還」という過程をたどる。

 「クリード」の物語は、アドニスがアポロの愛人の息子であるため、その冒険が二段階になる。前作では、孤児のアドニスがイニシエーションを経て、アポロの息子になる。そして本作では、結果として避けられない宿命を背負ったアドニスが、キャンベルが「自らが築き上げ暮らしている世界の破壊、その一部となっている自己の破壊」と表現するようなイニシエーションを経て、完全な帰還を果たすことになる。

《参照/引用文献》
“A Beloved Charming Guy with a Dark Side”
: Director Steven Caple Jr.|The Land|Filmmaker Magazine●

by Soheil Rezayazdi(Jan 30, 2016)
Michael B. Jordan’s Technicolor Dreams|Vanity Fair●
by Joe Hagan(October 2, 2018)
『千の顔をもつ英雄[新訳版]』上・下 ジョーゼフ・キャンベル●
倉田真木・斎藤静代・関根光宏訳(早川書房、2015年)

(upload:2020/07/04)
 
 
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