チャールズ・フレイジャーの同名小説をアンソニー・ミンゲラが映画化した『コールド マウンテン』では、南北戦争の末期を背景に、戦争によって引き離された男女の運命が描き出される。
南軍兵士として戦場に送られ、熾烈を極めるピーターズバーグの戦いで瀕死の重傷を負ったインマンは、奇跡的に生き延び、病院で歩けるまでに回復する。故郷のコールドマウンテンと恋人エイダへの想いに駆り立てられた彼は、脱走兵になるのを覚悟で故郷への道を歩み出す。
一方、これまで恵まれた生活を送ってきたエイダは、牧師の父モンローを亡くし、窮地に立たされる。そんな彼女の前に、隣人から事情を聞いたルビーという娘が現れる。エイダは、これまで独力で生きてきたルビーに仕込まれ、生きる術を身につけていく。
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フレイジャーの原作は、映画化を知る以前に原書で読んでいた。この映画は、登場人物や構成など、かなり原作に忠実に作られている。だが、原作者と映画の作り手では、見ている世界が根本的に違っているように思える。
フレイジャーが最も力を込めて描いているのは、戦争の悲惨さでも、男女の愛でもないだろう。ではなんなのか。それを明確にするためには、南部がどのように変化してきたのかを確認しておく必要がある。
デヴィッド・バーンがテキサスの架空の街を舞台にした『トゥルー・ストーリーズ』 (86)で、牧畜や石油に代わるものとして、ハイテク産業やエッジ・シティに注目したように、南部は新たな発展を遂げている。
フレイジャーがこの原作を発表した翌年の98年に、トム・ウルフが11年以上もかけて完成した『成りあがり者』を発表していることにも注目すべきだ。この長大な小説では、南部の大都市アトランタを舞台に、伝統的な大農園が象徴する威厳と不動産開発の競争が生みだす富に引き裂かれていく権力者の姿が描き出される。
さらに、コーエン兄弟の『オー!ブラザー』(00)のサントラが、ルーツ・ミュージックやブルーグラスのアルバムとしては異例の爆発的なセールスを記録し、グラミー賞で年間最優秀アルバムに輝いたことや、メディア王の座を退いたテッド・ターナーが巨費を投じて、南北戦争を題材にした大作『Gods and Generals』(03)を作り上げたことも思い出すべきだろう。