[ストーリー] 他人の記憶に潜入する能力を持つ《記憶探偵》のジョン。数多くの難事件を解決してきた彼のもとに、ある日、資産家夫妻からの依頼が入る。彼らの娘で、森の中に佇む屋敷の自室に閉じこもる16歳のアナ。彼女の記憶に潜入し、トラウマを解消してほしいという両親の頼みは、これまで数々の凶悪事件を解決してきたジョンにとって簡単な仕事のはずだった。
しかし、ジョンがアナの記憶の中で見たものは――【実父の事故死】、【母親によってつけられた掌の傷】、【教師による性的虐待】、【ルームメイトの殺人未遂事件】。その記憶は、彼女の周囲で起き続ける事件の数々と、不穏な謎に満ちていた。捜査を進めるうちにジョンは、アナの記憶と食い違う事件関係者の証言を耳にする。さらに黒ずくめの男から尾行されるようになり、ジョンの《記憶》と《現実》も混乱を来たしてゆく。果たしてジョンは、アナの記憶に隠された過去の秘密を見つけ出し、すべての真相に辿りつけるのか――。[プレスより]
スペイン出身のホルヘ・ドラド監督の『記憶探偵と鍵のかかった少女』に登場する“記憶探偵”ジョン・ワシントン。彼が扱う記憶とはどんな記憶なのだろうか。それを解釈することには意味があるように思える。
たとえば、筆者がカズオ・イシグロにインタビューしたとき、彼は記憶というテーマについて以下のように語っていた。
「人間は、記憶というこの奇妙なレンズ、フィルターを持っていて、成功した人間も失敗した人間も、過去を見るときにこのレンズを使ってイメージを操作し、過去を変える。記憶は人々が苦闘する姿を見つめる鍵になる。人間は一方で過去の忌まわしい出来事を隠そうとし、もう一方にはあるがままに正直に見つめ、自分たちが何者で、何をしたのかを明らかにしたいと望む傾向があります。ふたつの要素がせめぎあっているのです。記憶について書くようになってから、それが人間を見る方法になりました」
ジョンが潜入するのもそういう記憶だ。だから彼が目撃する記憶は必ずしも事実とは限らない。彼はその記憶にどんなフィルターがかかっているのかを見抜く必要がある。
しかし、この映画における記憶の面白さはそれだけではないだろう。時代背景は定かではないが、そこにはマインドスケープ社という企業が存在し、記憶探偵たちと契約をしている。つまり、記憶がビジネスになり、精神科医が話を聞くのではなく、記憶探偵という他者が見ることができるものになっている。さらに、記憶探偵が得た情報の証拠能力は、DNA鑑定には劣るものの、嘘発見器よりも信憑性が高いという基準も設けられている。 |