[概要] 1970年代のダイアン・ポーリーは太陽みたいに明るくて、無邪気だった。誰もが彼女に夢中になった。たまにトラブルもおこしたけど、女優の仕事をしながらも、良き母でありつづけた。そんなダイアンが愛する夫と5人の子どもたちを残し、若くして亡くなったとき、末っ子のサラはまだ11歳。兄妹たちは言った。「サラだけがパパに似ていない」。それは、ポーリー家のおきまりのジョーク。でもサラは、ほんの少し不安になる。本当のパパはパパじゃないのかもしれない。いつしかサラは、ママの人生を探りだす。自分が生まれる前のママ。家族と離れ、1人モントリオールで舞台に立ったママ。そして、知らない男と恋をしていたママ――。やがてママを愛したみんなの口からは、それぞれが知るダイアンの物語があふれだす――。[プレスより]
『スウィート ヒアアフター』(97)や『死ぬまでにしたい10のこと』(03)の女優、そして『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』(06)や『テイク・ディス・ワルツ』(11)の監督・脚本家として活躍するカナダ、トロント出身のサラ・ポーリー。『物語る私たち』(12)は、そんな彼女が自身の出生の秘密に迫っていくドキュメンタリーです。ポーリーの家族や母親ダイアンの友人たちが、記憶をたぐり、ダイアンをめぐる物語を語っていきます。
レビューのテキストは準備中です。とりあえず簡単に感想を。
■深刻な題材でありながら、重苦しくなるどころか笑いすら誘ってしまうのは、ポーリーの独自のアプローチによるところが大きいです。ポーリーはこの映画で、ただ真実を明らかにしようとしているわけではありません。重要なのは、記憶とは必ずしも真実ではないということです。
筆者は映画を観ながら、以前、作家のカズオ・イシグロにインタビューしたときに、彼が“記憶”について語っていた以下のような言葉を思い出していました。
「人間は、記憶というこの奇妙なレンズ、フィルターを持っていて、成功した人間も失敗した人間も、過去を見るときにこのレンズを使ってイメージを操作し、過去を変える。記憶は人々が苦闘する姿を見つめる鍵になる。人間は一方で過去の忌まわしい出来事を隠そうとし、もう一方にはあるがままに正直に見つめ、自分たちが何者で、何をしたのかを明らかにしたいと望む傾向があります。ふたつの要素がせめぎあっているのです。記憶について書くようになってから、それが人間を見る方法になりました」
ポーリーもそんな記憶を掘り下げています。彼女は人がそれぞれに過去を自分なりに解釈し、歪めるような心情を肯定し、暖かく見守っています。そして、そんな心情に触れることで、自分も出生をめぐる真実を受け入れていきます。そういう意味では、ある種のセラピーともいえます。 |