スウェーデン出身のラッセ・ハルストレム監督が世界的な注目を浴びることになった映画『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』でとても印象に残っているのは、ドラマと重力の不思議でユーモラスな関係である。決して恵まれた境遇にあるとはいえない主人公の少年は、失敗をしでかし、辛い思いをするたびに夜空を見上げ、人工衛星のなかで餓死したライカ犬を思って自分を慰める。
というようにこの映画には、不幸を見上げるという構図があるのだが、そんな少年はドラマのなかで、納屋の2階や天窓などから何度となく落下する。つまり少年は、不幸を象徴する衛星が無事に地上に帰還を果たすというようなモチーフの反復のなかで成長していくのである。
ハルストレム監督のそんなユニークなセンスは、新作『グルバート・グレイプ』においてアメリカの土壌と結びつくことによって、いっそう際立った効果をあげている。主人公の若者ギルバートは、退屈な田舎町に生まれ育ち、生まれてから24年間まったく町を出たことがない。というのも彼には、知的障害のある弟や過食症で身動きがままならない母親など、世話をしなければならない家族がいるからだ。
ハルストレムは重力の法則を巧みに操り、ギルバートと家族の喜怒哀楽を映像で見事に表現している。たとえば、障害のある弟は木の上を自分の居場所とし、町のなかで一番高くそびえる給水塔に登っては騒ぎを引き起こす。母親の方は、夫の死に深く傷ついて過食症になり、いまではそのものすごい体重のために家の床が抜けかけている。彼女の夫は実はその床の下にある地下室で、ある日突然、自殺してしまったのだ。そうなるとこの母親は、夫の世界に向かってめり込みつつあるようにも見えてくる。
要するに、町から動けないギルバートの家族は、上下に向かって自分を精一杯表現し、主人公はそんな力学のなかで宙吊りになっているのである。また、そんな上下運動を中心としたドラマのなかに、キャンピング・カーに乗ったヒロインが水平移動してくるとなれば、彼女の存在がひときわ輝くことになるのは言うまでもないだろう。 |