ゲット:ザ・トライアル・オブ・ヴィヴィアン・アムサレム(原題)
Gett: The Trial of Viviane Amsalem Gett: The Trial of Viviane Amsalem (2014) on IMDb


2014年/イスラエル=フランス=ドイツ/カラー/115分/ヴィスタ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

妻がゲット=離縁状を手にするための壮絶な苦闘

 

 ロニ・エルカベッツといえば、エラン・コリリン監督の『迷子の警察音楽隊』(07)に出演していた女優として知られているはずだが、弟のシュロミ・エルカベッツとコンビを組む監督/脚本家としても評価されている。

 『Gett: The Trial of Viviane Amsalem』(14)は、コンビが共同で監督した『Ve'Lakhta Lehe Isha/To Take a Wife』(04)、『Shiva/7 Days』(08)につづく三部作の完結編になる。残念ながら筆者はまだ前2作を観ていないので、3作がどのように繋がっているのか具体的に説明することはできないが、いずれもロニがヴィヴィアンというヒロインを演じているので、彼女を中心とした家族の年代記になっていると思われる。海外の記事などを読むと、イスラエルの、というよりユダヤ教における男性優位の現実を掘り下げているようだ。

 この新作のテーマは、ゲット(Gett)というタイトルが端的に物語っている。ゲットは離縁状を意味している。この映画のテーマは“離婚”だが、その規定は明らかに男性優位である。ある夫婦が離婚するためには、法廷でラビがそれを妥当とみなし、かつ夫が離縁状を書く必要がある。妻が離縁状を書くことはできない。ということは、夫が離婚を受け入れなければ、離婚ができないことになる。

 この映画は、その不条理を実に見事に描き出している。ドラマは完全に法廷のなかに限定されている。離婚をめぐって法廷でラビと向き合うのは、エイシャとヴィヴィアンの夫婦だ。夫との生活に耐えられないヴィヴィアンは、3年前に家を出て、彼らは別居状態にある。弁護士カーメルをともなって法廷に現われたヴィヴィアンは離婚を求めるが、夫のエイシャは受け入れない。そこから、ラビたちを説得し、夫に離縁状を書かせるための気の遠くなるような駆け引きが始まる。それは、驚くことに裁判の開始から5年間もつづくことになる。

 舞台が法廷に限定され、そんな駆け引きばかりがつづけばさすがに飽きると思われそうだが、実際にはドラマにぐいぐい引き込まれる。まるで刑事裁判のように、証人たちへの尋問も盛り込まれ、男女や結婚をめぐる現実が様々な角度から浮き彫りにされていく。そんなドラマは、シュールにも、滑稽にも、恐ろしくも見える。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ロニ・エルカベッツ、シュロミ・エルカベッツ
Ronit Elkabetz, Shlomi Elkabetz
撮影 Jeanne Lapoirie
編集 Joel Alexis
 
◆キャスト◆
 
Viviane Amsalem   ロニ・エルカベッツ
Ronit Elkabetz
Elisha Amsalem シモン・アブカリアン
Simon Abkarian
Carmel Ben Tovim Menashe Noy
Rabbi Shimon Sasson Gabai
Haim Gabi Amrani
Donna Aboukassis Dalia Beger
Ya’akov Ben Harouch Shmil Ben Ari
Shmuel Azoulay Abraham Celektar
Rabbi Danino Rami Danon
Head Rabbi Salmion Eli Gornstein
Evelyn Ben Chouchan Evelin Hagoel
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(配給:)
 

 

 

(upload:2015/06/28)
 
 
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