コルネリウ・ポルンボユにとって3作目の長編となる『ホエン・イブニング・フォールズ・オン・ブカレスト・オア・メタボリズム(英題)』は、ブカレストの夜の街を走る車のなかで、会話を交わす男女の姿を背後からとらえた長回しのショットで始まる。やがてその男女が、若手の映画監督のポールと彼が撮影中の映画に出演している女優のアリーナであることがわかる。
ポールはプレッシャーを感じている。撮影期間が残り少なくなっているのに、彼のアイデアはまとまらず、撮影は暗礁に乗り上げている。そこで彼は胃痛を理由に時間を作り、自分のアパートでアリーナとリハーサルを進めるが――。
レビューのテキストは準備中です。とりあえず簡単な感想を。わずか18カットで構成されたドラマは、車中、アパート、レストランなどを背景として、ポールとアリーナの会話を中心に展開していきます。
ポルンボユ監督のこれまでの2作品『ブカレストの東 12時8分(英題)』(06)と『ポリス、アジェクティヴ(英題)』(09)では、監督の出身地であるバスルイを舞台に、革命から現在までの間にルーマニア社会は本当に変わったのかというテーマが独自の視点から掘り下げられていました(もちろんそれは、ルーマニア・ニューウェーブのテーマでもあります)。
ブカレストを舞台に、映画監督と女優の関係を描くこの第3作は、それらとはまったく異なる作品のように見えますが、本質は変わっていません。彼の映画を観ていて必ず思い出されるのは、政治学者ジョゼフ・ロスチャイルドの『現代東欧史』にある以下のような記述です。
「しかし、権力の集中と特権の構造はチャウシェスクの没落ののちまでしぶとく生き延びた。強制、恐怖、疑惑、不信、離反、分断、超民族主義といった政治文化がルーマニアで克服されるまでには長い時間が必要である。結局のところこうした文化は、半世紀にもおよぶ共産主義支配によってさらに強化される前から、すでにルーマニアの伝統となっていたからである」 |