台湾の新鋭チャン・ロンジーの長編デビュー作『光にふれる』(12)は、実際にプロのピアニストとして活躍しているホアン・ユィシアンの実話に基づき、ユィシアン自身が主人公を演じている。チャン監督は、08年に短編『ジ・エンド・オブ・ザ・トンネル(黒天)』を発表し、視覚障害を持つピアニストの青年の姿を描いたこの作品に心を動かされたウォン・カーウァイが長編として映画化することを決め、『光にふれる』が誕生したという。
生まれつき目が不自由なユィシアンは、たぐい希なピアノの才能を持ちながらも、幼い頃にコンクールで起きた事件がトラウマとなり、表舞台に立つことができなくなっていた。そんな彼をいつも近くで見守ってきた母は、心配な気持ちを抑え、彼が将来音楽を仕事にして自立できるようにと、台北の音楽大学に通わせることにする。
家族と離れた都会での暮らしや、健常者のクラスメイトとの間にある壁は、ユィシアンに大きな戸惑いを感じさせ、不安な毎日が過ぎていく。ところがそんな彼の生活は、ダンサーを夢見る少女シャオジエ、彼の音楽と人柄に惹かれて集まった仲間との出会いによって変わっていく。
ユィシアンは、音楽大学で学ぶと同時に、寮で同室になったチンが作ったサークル、スーパーミュージックのバンドにも参加している。そして、音楽科のコンクールとサークルの期末公演の日にちが重なる。ユィシアンは、音楽科で教師からその実力を認められているが、クラスメイトから彼がコンクールに参加することを拒まれる。トラウマを抱えるユィシアン自身も参加を望まず、サークルの期末公演の方を選択する。一方、ダンサーを夢見るシャオジエは、国際オーディションのチラシに心を動かされていく。
果たして、ユィシアンは音楽科のコンクルールに参加するのか。シャオジエは国際オーディションに挑戦するのか。もし、コンクルールやオーディションで彼らが成功を収めるのかどうかが見所になるようなありがちな物語であれば、筆者はさほどそそられなかっただろう。
しかし、チャン監督は必ずしもその部分にこだわっているわけではない。彼が関心を持っているのは、音楽とダンスをめぐるユィシアンとシャオジエの内面の変化だ。 |